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掲載作品 |
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朗文堂愛着版 『花あしび』 四六判 240ページ 上製本 定価:本体12000円+税 ISBN4-947613-52-1 C3093¥12000E
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朗文堂愛着版『花あしび』は700部を限定刊行しています。 |
はやいものです──。堀辰雄(1904―53)の生誕100年と、逝去からも50年になろうとしています。堀辰雄がのこした書物は、かおりたかい文学性の評価はもちろん、いまなおかわらぬ美しい装いが読者のこころをとらえています。 ところがたった一冊だけ不幸な太平洋戦争の直後に誕生した、いたいたしい書物が『花あしび』でした。この書物は戦争のさなかに青磁社によって印刷されたものの、空襲によってはかなく焼失したとされています。さいわいなことに複製原版としての紙型がのこりましたので、敗戦直後にあわただしく発行されたのが青磁社版『花あしび』でした。残念なことに印刷用紙をはじめすべての資材が不足していた時代の、清楚ですが、いたいたしい書物でした。 朗文堂ではこうした不幸な戦争をはさんで誕生した青磁社版『花あしび』を底本として、そのよき再生をこころみました。なによりも青磁社版『花あしび』は、すでに半世紀というときのなかに朽ちおちようとしていました。その再生にさいしては、ゆったりと読みやすい書物と、おおらかで簡素な造本を意識したつもりです。 現代の書物をとりまく環境は、はげしい変容をくりかえしています。その結果ここ100年ほどのあいだむりやり書物がになわされ、「情報伝達」などとよばれてきた一部の役割は、電子技術が提供する環境のなかにとりこまれつつあります。もしかするとわたしたちはそんな状況を「活字ばなれ」と呼んでいるのかもしれません。 しかしながら一見荒廃したかにみえるこの国の読書人にも、書物のありようをあつくかたる情熱がありますし、埋み火のようにひそかに書物を愛でる情念もみられます。むしろこんな時代になって、書物本来の役割が明瞭になっているようにおもわれるのです。 (こんな時代だからこそ、ゆったりとたのしめる、愛着がわく書物をつくってみたい)。 こんな単純な動機につきうごかされた、というのが本音かもしれません。あるいはまた、ときの堆積のなかに朽ちおちようとしている書物への、義憤にもにた衝動だったのかもしれません。 その再生にあたっては、使用した電子活字には創意をこらしましたし、堀辰雄、堀多恵子両先生への尊敬と思慕のこころをあらわすために、印刷用紙に「堀」の印章からの透かし紋様をいれました。また金属活字版印刷の重厚感にまけないように、インキの材質と発色にもテストをくりかえしましたし、ボール紙の断裁面のメントリなどの、すでに機械化がすすんだ工程では実施されなくなった技術の再生ももとめました。 なによりも意識していたのは「よき量産」でした。つまりふるさにこだわって民芸趣味に堕すことや、声高に限定版としての数量を標榜したり、ましてや耽美趣味ととられかねないことはできるだけさけたつもりです。 ですからこの『花あしび』の再生が、現代の書物をとりまく錯綜した環境への、なんらかの解決策を提示できたら……、という正直なおもいもありました。そんなさまざまなおもいをこめてようやく朗文堂版『花あしび』が誕生しました。そこにはあえて「愛着版」と名づけました。 できましたらこの朗文堂愛着版『花あしび』が、読者諸賢からのご支持とご愛着をたまわり、つぎの世紀にとどまらず、さらなる数百年におよぶときのなかに、たくましく、そしておおしくあってくれたら、望外のよろこびとするところです。 |
朗文堂愛着版『花あしび』造本データ 上製本 かがり綴じ、丸背、溝つき、フォローバック、角丸面取り継ぎ表紙 本文用紙 三島製紙「オークバルキーオペーク クリーム」をベースとした「堀」の透かし紋様入り別寸特抄き用紙 四六判90キログラム相当 口絵用紙 ミューマットコート 四六判90キログラム ライス貼り カラペ22シルバー 菊判11、3キログラム 背 革 小羊皮特染め バックスキン使用 芯 紙 OK艶ボール28号 L判123キログラム ひら紙 アンドレ・アイボリー 四六判80キログラム 見返し用紙 アンドレ・ローズ 四六判120キログラム 花 布 望月 A七二番 スリップ・ケースのデータ クロス巻き、角面取り、内貼り製函 芯 紙 内側:チップボール L判44キログラム 2枚 外側:特白ボール L判31、5キログラム 1枚 (三枚のボール紙を合紙しました) 内貼り紙 色上質 藤 四六判特厚口 外貼り布 東京リネン 320―61番 |
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