タイプサイズの単位(Typographic unit)

山本太郎

タイプサイズの単位はメートル制以前に確立されたため、ふつうのメートル単位とは異なる。ヨーロッパではディドー・ポイントシステム(the Didot point system)がアンブロワーズ・ディドー(François-Ambroise Didot [1730–1804])によって1783年頃に発明された。ディドーのシステムはフルニエ(Pierre Simon Fournier [1712–1768])のシステムに基づいているが、ディドーはフルニエの単位を当時のフランスのインチ単位(French Royal inch [pouce])と整合させた。フルニエの単位はいかなる標準の単位にも正確に一致していなかったからである。

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(フルニエのポイントシステムの印刷されたスケール。Manuel Typographique, Barbou, Paris 1764より拡大して引用)

しかし、当時のフランスのインチなどの基準となる計測単位を分割して求めた最小単位を、適宜何倍かに乗算することでさまざまな異なるタイプサイズを生成するという基本的な考えはディドーの創案ではなく、フルニエによるものである。¹ フルニエのシステムでは、フランスのインチ単位に近い値を12等分して1リーニュ(ligne)を算出し、さらにそれを6等分して1ポイントの大きさを算出している。ディドーは基準となる単位(フランスのインチであるpouce)を当時の政府が定めた標準値に正確に等しくなるようにしたにすぎない。

ディドー・ポイントにおいて

ディドーおよびフルニエどちらのシステムにおいても、ポイントサイズのなかにはCiceroなどの伝統的な名前に対応するものがある。(ポイントシステムが導入される以前は、活字の大きさはCicero, Pica, Ruby, Long Primerなどの名前で呼ばれていた)。

ディドー・ポイントはヨーロッパ諸国でこれまで広く用いられてきた。.

英国とアメリカ合衆国においては、数多くの活字サイズ標準化の提案が19世紀末までになされた(例えばブルース活字鋳造所のシステムのように精密な幾何級数的な比例に基づく数学的なシステムの提案もあった)。しかし、1886年にアメリカンポイントシステムが制定されるまで、国全体に通用するような活字サイズの標準は作られなかった。

アメリカンポイントシステムはシカゴのマーダー・ルース社(Marder Luse & Company)のネルソン・C・ホークス(Nelson C. Hawks)によって1870年代に提案された。ホークスのシステムはフルニエと同じサイズ分割の方法を用いた。すなわち、1インチを6等分して1パイカを算出し、それをさらに12等分することで1ポイントを得る。しかし、最終的に1886年に制定されたアメリカンポイントシステムは、ホークスの元々の考えとは違っていた。規格は1パイカを正確に1/6インチ(この場合は、英米式のインチ)としなかったのである。これは、合衆国活字業協会(the United States Type Founders’Associationが標準のパイカの大きさをいわゆるジョンソンパイカ(the Johnson Pica)と定めたからである。ジョンソンパイカはフィラデルフィアのマッケーラー・スミスズ・アンド・ジョーダン活字鋳造所(Mackellar, Smiths and Jordan、以後MS&Jと略称)が採用していた。MS&Jは当時大きな影響力をもっていたため、他の活字鋳造所の多くがジョンソンパイカを用いていた。²また、MS&Jは83パイカを35センチメートルと定めた。

ジョンソンパイカはローレンス・ジョンソン(Lawrence Johnson)の名に由来する。ジョンソンは1833年にビニー・アンド・ロナルドソン活字鋳造所(Binny & Ronaldson)の経営を引き継いだ。ビニー・アンド・ロナルドソンは合衆国最古の活字鋳造所のひとつで、フィラデルフィアに1796年に設立された。ビニー・アンド・ロナルドソンはベンジャミン・フランクリン(Benjamin Franklin. [1706–1790])の鋳造所(1786年設立)が用いていた活字鋳造用器材を購入していた。フランクリンの鋳造所は後に彼の孫のベンジャミン・フランクリン・バーチ(Benjamin Franklin Bache [1769–1798])が経営していた。その器材は、ベンジャミン・フランクリンが外交上の目的で滞在(1776–1785)したフランスでピエール・シモン・フルニエから購入したものと考えられる。

アメリカンポイントシステムにおいて

従来、アメリカンポイントシステムはアメリカ合衆国、英国その他日本を含む諸国で用いられてきた。

今日のデジタル式の印刷・表示装置やページレイアウトソフトウェアが用いるタイプサイズの単位は、上に述べた伝統的なタイプサイズの単位とは異なる。多くのデジタル印刷システムにおいて(特にDTPシステムにおいては)以下の式が適用される(ただし例外はある)。

今日のデジタルタイポグラフィでは、元々のフルニエによる分割方法が復活していることがわかる。フルニエによるポイントシステム発明の不朽の価値の証左といえよう。

¹ 実際にはセバスチャン・トルーシェ(1657–1729)が同様の活字計測のシステムをフルニエ以前に発明していた。トルーシェのシステムは王立印刷所(Imperiemerie Royal)のromains du roiに用いられた。フルニエはトルーシェの方法について知っていたものと思われる。トルーシェのシステムはフランスのインチ制と1/204リーニュ(ligne)という細かな単位に基づくものであった。トルーシェのシステムに関する詳細は以下の文献を参照されたい。James Mosleyの“The New Type Bodies of the Imprimerie Royale”, pp. 400–408, Vol. 3, The Manuel Typographique of Pierre-Simon Fournier le jeune, Darmstadt 1995およびJacques André's “Truchet & Types”(http://www.irisa.fr/faqtypo/truchet/truchet1E.html).
² ジョンソン・パイカが採用された背景について、『アメリカンポイントシステムの起源』(Origin of The American Point System)の著者であるリチャード・L・ホプキンス氏は次のように述べている。「新しいシステムに合わせるために何百もの鋳型を作り変えるのは実際大変な問題であった。たとえ二三のサイズだけでもやり変えなくて済めば、何十万ドルが節約できたのである。それが、MS&Jのジョンソンパイカが採用された理由である。」

参考文献

備考

本稿は筆者による以下の英文記事の翻訳である。

関連項目