★フォントとグリフ font, glyph
山本太郎
わが国にはおもにデジタル・タイプの時代に紹介されたために、フォントという語句はしばしば混乱をまねいています。
フォントの定義はRobert Bringhurst 『The Elements of Typographic Style』 Second Ed. Hartley & Marks, Vancouver 1996 が明快な定義をあたえています。すなわち「フォントとはソート(sort)または グリフ(glyph)のひと揃えの集合体である」としています。
ここでいうソートとグリフとは、
「ソートとは一個の金属活字、すなわちある特定の様式と大きさを有する文字である。文字がいかなる物理的存在ももたないデジタル・タイプにおいては、ソートにかえてグリフがもちいられることがある。グリフはある抽象的な象徴(それを一個の文字とよぶ)の概念的で非物質的な典型を意味する」としています。
デジタル・タイプにおけるフォントの定義をより実際的にいいかえると、
「フォントとは正確にはグリフ集合とよばれる特定の文字セットと、特定の書体デザインにもとづく文字のかたちの集合である」とすることができます。
さらに、ふつうデジタル・タイプにおけるフォントとは、グリフと文字コードとの対応表をふくむことが多いのですが、それは文字コードから個々のグリフに対応する具体的な「文字のかたち」を呼び出してつかうために必要となるからです。ここでの「文字のかたち」とは、レター(letter)、グリフ・イメージ(glyph-image) などに対応するもので、個別の具体的な文字の形態を意味します。
隣接語としての、英語のキャラクター(character) は、しばしば「アルファベットの一要素としての文字」の意味でもちいられます。つまりキャラクターにおいては「AはAであってBではない」のようになります。それはテキスト情報の最小構成要素として、もっとも抽象的で概念的かつ機能的な文字の差異だけに着目するものです。したがって個々の文字の範囲内でのこまかな字体のちがいや、具体的な形態の差異などの、図形的・物理的な詳細は切り捨てられます。
ところが前述したグリフはキャラクターとは異なって、図形的な差異の詳細までをふくんだ概念です。したがってアルファベットのローマン体において、ふつうの大文字と装飾的な大文字とをグリフは区別しますが、キャラクターは「AはAであってBではない」として区別しないのがふつうです。
そうかといってグリフとは個々の書体デザインの差異はもとより、その優劣を区別するものでもありません。このようにグリフとはその抽象度において、キャラクターと、レター、グリフ・イメージといったことばの中間に位置する概念ですが、その境界はあいまいで、実際にはキャラクターとグリフを便宜的に使いわけている例もみられます。