月別アーカイブ: 2010年9月

本音を申せば、チト不安なのです!

トロロアオイが、まだ花をつける気配がありません!

この欄の6月8日に紹介しました「トロロアオイ」です。エアコン排気の熱風にも負けず、なんとかけなげに酷暑を乗りきったのですが、いっこうに花芽をつける気配がありません。気長に花をつけるのを待ちたいところですが、10月2日には、五日市の「軍道紙 グンドウガミ工房」にこの根を持っての集合がかかっています。

活版印刷をはじめると、印刷用紙もなにかとこだわりが生じるものです。ですから東京都内で手漉き紙が体験できることを知ると、谷あいの「黒茶屋」でプチ贅沢ランチをとり、「喫茶むべ」の美味しい珈琲を愉しみ、さらに天然温泉の露天風呂にまで浸かって日帰りしよう……、などという無謀な企画を平気で立てるのが「活版カレッジ・アッパークラス」です。堂主としてはただ呆れて見ているばかりなのですが……。

まだ肌寒い日が続いた6月の下旬に、活版カレッジ修了生・活版カレッジ・アッパークラスの皆さんに、黒ポットにはいった若芽の「トロロアオイ」をお分けしました。その際、晩夏のころに、真っ黄色な大輪の花をつけるはずだ……、としてご案内しました。すでに花が咲いたとの報告もいただいているのですが、わがベランダ花壇の「トロロアオイ」は一向に花をつけようとしませんし、連日の肌寒い雨に打たれるばかりなのです。

ミニトマト、大輪朝顔、風船カズラなどと一緒に、ごちゃごちゃと植え込んだのがわるかったのかもしれません。それでも茎は太く、背丈を越えるほどに成長しているのですが、花はつけないのです。なんでも実践しないと気が済まない「活版カレッジ」の修了生の皆さんは、おそらく「トロロアオイ」の根を持ち寄り、花の写真を見せ合うのを愉しみにしているはず。それなのに……。

あと3—4日、ともかくこのまま着花をまつしかありません。ザクロが黄色くなったようなシロモノは、ニガウリの実が過熟して黄変したものです。開花を待つ間に、愛用の「ロダンの椅子」に乗せてシャッターを切りました。




おまたせしました ! 杉明朝体 発売開始 !!

杉明朝体杉本幸治制作硬筆風細明朝、TrueType先行発売

杉明朝体はね、構想を得てから随分考え悩みましたよ。
その間に土台がしっかり固まったのかな。
設計がはじまってからは、揺らぎは一切無かった。
構造と構成がしっかりしているから
小さく使っても、思い切り大きく使っても
酷使に耐える強靱さを杉明朝体はもっているはずです。
若い人に大胆に使ってほしいなぁ。
—— 杉本幸治の述懐 ——
  • 杉明朝体の書体設計は杉本幸治氏(タイポデザインアーツ)です。
  • 製品仕様/日本語TrueTypeフォント。
  • Macintosh用とWindows用を用意(選択発注)。
  • PDFファイルにエンベッド(埋込可能)、アウトライン化可能。
  • JIS X 0201およびJIS X 0208-1990(第1・2水準)準拠。
  • Windouws対応TrueTypeフォントにはIBM拡張漢字を収容。
  • 動作環境/詳細カタログに記載。
  • 販売価格/¥31,500(本体¥30,000)

OpenTypeフォント完成後、希望者にはパッケージの提示によって、
OTFと無償交換いたします(送料はご負担いただきます)。

詳細はこちら

特約販売店 朗文堂 タイプ・コスミイク

新宿私塾、活版カレッジがスタート

イベントの秋です! お元気ですか?

《新宿私塾16期-17期》

秋たけなわのこのごろです。残暑ももうしばらくの辛抱のようです。皆さまお変わりなくご活躍のことと存じます。猛暑・酷暑・残暑をものともせず朗文堂は8月を乗りきり9月に突入しました。

陽春の4月にスタートした「新宿私塾第16期」は、真摯で意欲的なメンバーによって構成されました。開塾日にはいつも定時で終わることなく、遅くまで講師を交えて熱いタイポグラフィ談話を交す風景が毎週のように見られました。

そんな「新宿私塾第16期」は、さまざまな成果とおもいを込めて、9月11日「新宿私塾第16期生終了制作会」に堂々と各自の研究成果を発表して旅立っていきました。塾生の皆さんの前途に幸多かれと祈るとともに、いつも変わらぬ多くの講師陣と特別講師の皆さまの献身的なご協力に感謝いたします。

新宿私塾第17期カリキュラム

新宿私塾の教場に、まだ16期生の熱気がこもっているような9月14日「新宿私塾第17期生」が入塾して、簡単なオリエンテーションののち、さっそく第1回目の講座がスタートしました。造形界に吹く風は、必ずしも順風とはいえないさなか、さまざまなおもいと熱意とを抱いて結集した17期生です。当然講座は熱気を帯び、瞬時のゆるみも許されない緊張感に教場は包まれていました。

新宿私塾後期の修了はこれから半年後、3月末の予定です。担当講師陣の皆さんも、カリキュラムの見直しと、さらなる充実を計って臨んでいます。例年とは違って残暑の中でのスタートとなりましたが、秋から冬を経て、早春を迎える頃には17期生も先輩に負けない、実技と実践を基盤とした、たくましいタイポグラファになってくれることを期待してのスタートとなりました。

《活版カレッジ第7期》

アダナ・プレス倶楽部による「活版カレッジ第7期」が9月2日から3ヶ月の研修期間の予定でスタートしました。このところアダナ・プレス倶楽部は極めて多忙で、Adana-21Jの出荷に追われ、Adana-21Jの購入希望・予定者に向けた「Adana-21J操作指導教室」が間断なく開催されています。そんななかでの「活版カレッジ第7期」のスタートです。

活字版印刷術における技・知・美をバランス良く学ぶことを目的とする「活版カレッジ」は、Adana-21J実機を用いての講座となりますので、徹底した少人数の講座が特徴です。ところが……、3ヶ月の講座修了後も、「活版カレッジ」のメンバーは、まだAdana-21Jを持たない修了生を中心に「活版カレッジ・アッパークラス」と称して、毎月2回ほどのペースで集まり、Adana-21Jを用いての印刷と情報交換が盛んです。
活版印刷は、重い活字を用い、実際に活版印刷機を駆使しての「身体性をともなった造形」が特徴です。自らの五感にもとづく造形の結果は、すべて言い訳が許されずに「活版印刷物」として眼前に現出します。ですからその賑やかなことといったらありません。ましてイベントの秋とあって、修了生同士がかたらってちいさな展覧会を開いたり、ほかの活版仲間との交流も盛んです。

「活版カレッジ・アッパークラス」では、既報のとおり「活版カルタ」を製作中。イロハ順かあいうえお順か知りませんが、目下のところ「け」まできたようです。この連中ときたら、手漉き紙に関心が向くと、とろろアオイを苗から育てて、10月初旬にはその根っこをもって、手漉き紙体験会に出かけるそうですし、12月には突如「餅プレス倶楽部」を結成して、セイロ・臼・杵まで持ち出して「大餅つき大会」を企画しています。それまでにカルタができたらまるで奇跡ですね。

《美術館巡り》

なにしろ9月の声を聞いた途端に、魅力的な展覧会が目白押し。あれも行きたい、これも行きたいと思いつつ、もともと出不精ですし、これまた書店の書棚いっぱいに新刊書が並んで、あれも読みたい、これも読みたいで……。とどのつまり、宇都宮美術館で展覧予定だった「ザ・コレクション・ヴィンタートゥール/スイス発―知られざるヨーロピアン・モダンの殿堂」が巡回した、世田谷美術館に出かけました。

ヴィンタートゥール美術館は、15年ほど前、スイスのバーゼルで訪れたことのある、とても雰囲気の良い美術館でした。それでも美術館の雑踏を抜け、木陰に立って煙草を一服したとき、結局大好きなユトリロの「白い家」だけが鮮烈な印象としてのこり、ほかの絵画や彫刻は、わたしの貧弱な図像記憶メモリーから溢れ出てしまいました。

19日(日)は、どうしても気になっていた書道博物館での「漢字のはじまり—古代文字の不思議をさぐる」に出かけました。学芸員の中村信宏さんともお会いでき、甲骨文の魅力を堪能。それでもやはり甲骨文は地味ですし、難解です。10月からは特別展示「中村不折ベストコレクション展」が予定されており、皆さんにはこちらをご案内することにしました。

そんなわけで、せっかくの3連休も、ただ疲れた! のひとことで終わりました。

杉明朝体 近日発売開始!

杉明朝体--杉本幸治制作/硬筆風細明朝体 近日発売開始!


杉明朝体はね、構想を得てから随分考え悩みましたよ。
その間に土台がしっかり固まったのかな。
設計がはじまってからは、揺らぎは一切無かった。
構造と構成がしっかりしているから、
小さく使っても、思い切り大きく使っても
酷使に耐える強靱さを杉明朝はもっているはずです。
若い人に大胆に使ってほしいなぁ。

-杉本幸治 83歳の述懐-

上左)晃文堂明朝体の原字と同サイズの杉明朝体

 

上右)晃文堂が和文活字用の母型製作にはじめて取り組んだ「晃文堂明朝」の原字。(1955年杉本幸治設計 原寸/協力・リョービイマジクス)

 

 

2つの 「 書 」 の図版を掲げた。かたや1955年、杉本幸治28歳の春秋に富んだ時期のもの。こなたは新書体「杉明朝体」である。

 2003年、骨格の強固な明朝体の設計を意図して試作を重ねた。杉本が青春期を過ごした、三省堂の辞書に用いられたような、本文用本格書体の製作が狙いであった。現代の多様化した印刷用紙と印刷方式を勘案しながら、紙面を明るくし、判別性を優先し、可読性を確保しようとする困難な途への挑戦となった。制作に着手してからも既成書体における字体の混乱に苦慮しながらの作業となった。名づけて 「 杉明朝体」 の誕生である。

 制作期間は6年に及び、厳格な字体検証を重ね、ここに豊富な字種を完成させた。痩勁ながらも力感に富んだ画線が、縦横に文字空間に閃光を放つ。爽風が吹き抜けるような明るい紙面には、濃い緑の若葉をつけた杉の若木が整然と林立し、ときとして、大樹のような巨木が、重いことばを柔軟に受けとめる。

《杉明朝体の設計意図-杉本幸治》

2000年の頃であったと記憶している。昔の三省堂明朝体が懐かしくなって、何とかこれを蘇らせることができないだろうかと思うようになった。 ちょうど 「 本明朝ファミリー 」 の制作と若干の補整などの作業は一段落していた。 しかしながら、そのよりどころとなる三省堂明朝体の資料としては、原図は先の大戦で消失して、まったく皆無の状態であった。

わずかな資料は、戦前の三省堂版の教科書や印刷物などであったが、それらは全字種を網羅しているわけではない。 従って当時のパターン原版や、活字母型を彫刻する際に、実際に観察していた私の記憶にかろうじて留めているのに過ぎなかった。

戦前の三省堂明朝体は、世上から注目されていた 「 ベントン活字母型彫刻機 」 による最新鋭の活字母型制作法として高い評価を得ていた。 この技法は精密な機械彫刻であったから、母型の深さ、即ち活字の高低差が揃っていて印刷ムラが無かった。 加えて文字の画線部の字配りには均整がとれていて、電胎母型の明朝体とは比較にならなかった。

しかしながら、戦後になって活字母型や活字書体の話題が取り上げられるようになると、「 三省堂明朝はベントンで彫られた書体だから、幾何学的で堅い表情をしている 」 とか、 「 理科学系の書籍向きで、文学的な書籍には向かない 」 とする評価もあった。

確かに三省堂明朝体は堅くて鋭利な印象を与えていた。 しかし、それはベントンで彫られたからではなく、昭和初期の文字設計者、桑田福太郎と、その助手となった松橋勝二の発想と手法に基づく原図設計図によるものであったことはいうまでもない。

世評の一部には厳しいものもあったが、私は他社の書体と比べて、三省堂明朝体の文字の骨格、すなわち字配りや太さのバランスが優れていて、格調のある書体が好きだった。 そんなこともあって、将来何らかの形でこの愛着を活用できればよいがという構想を温めていた。

三省堂在職時代の晩期に、別なテーマで、辞書組版と和欧混植における明朝活字の書体を様々な角度から考察した時、三省堂明朝でも太いし、字面もやや大きすぎる、いうなれば、三省堂明朝の堅い表情、即ち硬筆調の雰囲気を活かし縦横の画線の比率差を少なくした 「 極細明朝体 」 を作る構想が湧いた。

ちなみに既存の細明朝体をみると、確かに横線は細いが、その横線やはらいの始筆や終筆部に切れ字の現象があり、文字画線としては不明瞭な形象が多く、不安定さもあることに気づいた。 そのような観点を踏まえて、全く新規の書体開発に取り組んだのが約10年前 「 杉本幸治の硬筆風極細新明朝 」 即ち今回の 「 杉明朝体 」 という書体が誕生する結果となった。

ひら仮名とカタ仮名の 「 両仮名 」 については、敢えて漢字と同じような硬筆風にはしなかった。 仮名文字の形象は流麗な日本独自の歴史を背景としている。 したがって無理に漢字とあわせて硬筆調にすると、可読性に劣る結果を招く。 既存の一般的な明朝体でも、仮名については毛筆調を採用するのと同様に「 杉明朝体 」 でも仮名の書風は軟調な雰囲気として、漢字と仮名のバランスに配慮した。

杉明朝体 」 は極細明朝体の制作コンセプトをベースとして設計したところに主眼がある。 したがって太さのウェートによるファミリー化の必要性は無いものとしている。 一般的な風潮ではファミリー化を求めるが太い書体の 「 勘亭流・寄席文字・相撲文字 」 には細いファミリーを持たないのと同様に考えている。

杉明朝体 」 には多様な用途が考えられる。例えば金融市場の約款や、アクセントが無くて判別性に劣る細ゴシック体に代わる用途があるだろう。 また、思いきって大きく使ってみたら、意外な紙面効果も期待できそうだ。

《杉明朝体設計者-杉本幸治氏の略歴》

東京都台東区下谷うまれ。終戦直後1946年 ( 昭和21) 印刷・出版企業の株式会社三省堂入社。  本文用明朝体、 ゴシック体、 辞書用の特殊書体などの設計開発と、 ベントン機械式活字母型彫刻システムの管理に従事し、 書体研究室、 技術課長代理、 植字製版課長を歴任。 またその間、 晃文堂 ( 現・株式会社リョービイマジクス ) の明朝体、 ゴシック体の開発に際して援助を重ねた。「 本明朝体 」 の制作を本格的に開始し、 以来30数年余にわたって 「 本明朝ファミリー 」 の開発と監修に従事している。 「 タイポデザインアーツ 」 主宰。