カッパン・かるた
さては、この手できたか!
梅便りについで、桜だよりが慌ただしいこのごろです。朗文堂アダナ・プレス倶楽部は週末に 《 第6回活版ルネサンスフェア 》 を控え、さらに5月のゴールデン・ウィークには 《 活版凸凹フェスタ 》 を控えて慌ただしい毎日です。
ところが、新宿私塾の春休みを利用して 「 活版カレッジ Upper Class 」 の皆さんが時折参集し、例の 「 カッパン・かるた 」 の制作に余念がありません。いちどブログでイヤミをしるしたせいでしょうか……、制作のピッチが急上昇し、なにやら海外から取りよせた 「 オーナメント・花形活字 」 を駆使して制作に熱中しています。
「 オーナメントをいじると、文字活字だけでは解らなかった、活字組版の本当の面白さがすぐに解っちゃう。だからカッパン中毒になっても知らないよ……」堂主の忠告(イヤミ?)ももののかわ、黙々とオーナメントを組み合わせ、テスト刷りを重ね、時折どっと歓声がわきあがる活版カレッジ Upper Classの皆さんのこのごろです。1ピースのオーナメントが、向きを変え、組みあわせを変えるだけで、どんどんあらたな形象を産みだしていきます。「 どうやらみんな、はまったな……」。
4年前の春のことです。ある大手の活字母型製造所が閉鎖されました。それに際して、まだスタート直後のアダナ・プレス倶楽部でしたが、活字鋳造にほとんど利害関係がないだけに、残念ながら閉鎖せざるをえなかった活字母型製造所と、稼働している活字鋳造所の双方から相談をうける立場にありました。
もちろん非力なアダナ・プレス倶楽部ですから、さしたるお手伝いはできなかったのですが、せめて複製原型としての活字母型を、できるだけたくさん継承し、今後とも混乱無く活用できる方途を探るお手伝いだけはしました。おおづかみには、号数体系の母型と、ポイント体系の活字母型を峻別して、それぞれを、意欲的かつ継続鋳造が可能な活字鋳造所に収蔵してもらう算段をつけました。
閉鎖を間近に控えたある日、活字母型製造所に出向いたところ、大量の「オーナメント・花形活字」の母型が、まだケースに入ったまま残っていました。
「オーナメントのたぐいは引き受け手がなかったの?」
「そう、活字っていうとみんなが文字活字だから……。アダナ・プレス倶楽部で買ってよ。地金代だけでいいからさぁ」
おりしも北京オリンピックの直前で、マテ材に使用されている真鍮は異常な高値を呼んでいました。
「真鍮は、いま1キロいくら?」
「高いよ! すごく!! あぁ活字母型をあんなに安くするんじゃなかったな」
こんな会話があって……。また、同社のオーナメントは出自がいくぶん不明瞭でしたし、細い画線部の母型には損傷もみられました。結局のところ「オーナメント活字母型」はすべて金属商の手にわたって溶解されてしまいました……。
昭和15―20年代にかけて水面下で展開した「変体活字廃棄運動」もそうですが、カッパン関連機器には、意外なほど非鉄金属が使用されています。そして非鉄金属の相場は、戦争や大型公共投資によって価格が乱高下します。ですからすぐる時代の印刷界のリーダーは、聖戦遂行のためと称して「印刷所は金属鉱山」だとする論文を発表して晩節を汚しました。
そんなわけで「カッパン・かるた」に使用しているオーナメントは海外からの輸入品です。そしてその効果的な使用法を説いたテキストはわが国には残念ながら存在しません。ですから「活版カレッジ Upper Class」の皆さんは、オーナメントの効果的な使用法に関しても、おさおさ情報交換にぬかりないようです。