朗文堂 アダナ・プレス倶楽部 2015年の年賀状

2015年賀状絵柄面 2015年賀状宛名面朗文堂 アダナ ・ プレス倶楽部の年賀状は、例年、数ある欧文活字を時代性によっていくつかのカテゴリーにわけ、それを歴史順に一書体ずつ選択して製作してきました。

これまでの年賀状では、ブラック ・ レター、ヴェネチアン ・ ローマン、オールド ・ ローマン、トランジショナル ・ ローマン、モダン ・ ローマン、クラレンドンを経て、昨年からはサンセリフのカテゴリーに入りました。
昨年は 「 グロテスク ・ サンセリフ 」 の 「 フランクリン ・ ゴシック 」 を使用しましたが、今年は 「 ネオ ・ グロテスク 」 の 「 ヘルベチカ 」 の登場です。
今年の年賀状の活字は 絵柄面に 24pt. と 18pt. のヘルベチカ、二号と三号のゴシック体の和文活字を使用しました。
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これまでは毎年、書体の歴史順に、さまざまな欧文活字書体を順繰りに愉しく使用してきましたが、サンセリフのカテゴリーに入った途端に、正直なところあまりおもしろさがなくなってきました。
ちょうど 『 いきなり黄金伝説 』 というテレビ番組の 「 ◯ ◯ のメニューを全部食べつくす 」 という企画で、「 デザート 」 のジャンルに突入した状況といえば、おわかりいただけますでしょうか。

一点一点は美味しいデザートでも、甘いものが何点も続くと食傷気味となってしまう、あの感じに近いものがあります。
しかし、サンセリフのカテゴリーには、まだ 「 ジオメトリック ・ サンセリフ 」 と 「 ヒューマニスティック ・ サンセリフ 」 のジャンルも残っています。 パフェとチーズケーキの後に、まだホットケーキとお汁粉が待っている有様のようです……。

さて、『 いきなり黄金伝説 』 といえば、よゐこの濱口氏の 「 捕ったど~!」 の雄叫びがこだまする 「 無人島生活 」 も人気のテレビ企画です。
このコーナーにおいて、濱口氏と有野氏が、お米の代わりに、小麦粉を練った物を、ちいさくちぎり、丸めて、米粒状にする作業を夜通しおこなう 「 チネリ米 」 をつくるのも番組の恒例となっています。
中国の北部では、この 「 チネリ米 」 が盛んにおこなわれていることを近年知りました。

中国南部、おおむね淮河ワイガ、揚子江(長江)あたりより南の地方は、温暖な気候でお米が採れますが、北部は寒冷な気候でお米が採れないために、主食はお米ではなく、小麦粉が中心となります。
そのため、淮河や黄河より北の地方では、小麦粉をもちいた麺や餃子や饅頭(マントウ)などが発達しており、「 チネリ米 」 のようなパスタ状の食品も存在します。

この中国のチネリ米は、本来は家族や仲間が食卓に集まって、前菜を食べながら、にぎやかに会話をしながら、ワイワイと愉しくチネッて作るものだそうです。
最近は時間や労力を惜しんで、飲食店であらかじめ準備されたものが出されることも多くなっていて、西安で羊肉が入った麺料理の店に入ったとき、店の従業員と家族が、お客さんに出すための 「 チネリ米 」 を総出でチネッている光景を見て微笑ましくなりました。

下掲の写真は、今年の01月10日に、中国北京の陝西省 ・ 西安料理のお店に入ったときに食べた 「 羊肉泡馍 」 という料理で、羊の肉とチネリ米が入っています。 安史の乱―― 唐の玄宗の末年755-63年に起こった叛乱で、安禄山父子・史思明父子が中心。叛乱の鎮圧後に各地に強大な権限をもった節度使がおかれ、それが軍閥化するなどして唐は衰退に向かった ―― にまつわる料理だそうです。
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写真上) さまざまな前菜のあとに、メインの「羊肉泡馍」。チネッた小麦粉と、羊肉が中心で、付けあわせに豆板醤、ニンニクの酢漬け、青菜などが登場します。
写真下) 陝西省料理ですので、北京市民にわかりやすく「羊肉泡馍」の特徴を解説したパネル。

2015年アダナ・プレス倶楽部の年賀状の絵柄面には、
子 曰 過 猶 不 及 ―― 『論語』先進篇
Less is more, More is Less ―― ミース・ファンダー・ローエ
のよく似たことばを組版しました。つまりなにごとも「過ぎたるは及ばざるが如し」です。
しかしながら、決して 「 引き算のデザイン 」 を賛美するわけではありません。「 侘 ・ 寂 」 といえば聞こえが良いですが、近年のわが国のデザインは、すこし 「 引き算 」 ばかりに偏り過ぎてきたように思います。 「 引き算 」 のデザインも 「 過ぎたるは及ばざるが如し 」 です。

「 引き算のデザイン 」 と 「 足し算のデザイン 」 双方のバランスが俯瞰できてこそ、いまだ 「 1920年代モダン 」 の影響が色濃いわが国のデザインが、幼いモダニズムから脱却し、デザインの未来への扉を開く力となることでしょう。
そのようなことを考えながら、20世紀モダンの落とし子たるサンセリフ群と格闘する日日がまだまだ続きそうです……。[ 大石 wrote ]