カテゴリー別アーカイブ: 花こよみ

花こよみ 004

詩こころ無き身なれば、折りに触れ、
古今東西、四季のうた、ご紹介いたしたく。

楓 橋 夜 泊
月 落 烏 啼 霜 満 天
江 楓 漁 火 対 愁 眠
姑 蘇 城 外 寒 山 寺
夜 半 鐘 聲 到 客 船
      ―――― 唐  張 継

蛇 足 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
月 落ち からす ないて 霜 天に満つ
江楓コウフウ 漁火ギョカ 愁眠シュウミンに対す
姑蘇コソ 城外の 寒山寺
夜半の鐘声 客船に到る

張継は中国8世紀前半盛唐の詩人。字は懿孫イソン。
湖北襄州のひと。玄宗のとき進士。『張祠部詩集』
一巻があり「楓橋夜泊フウ-キョウ-ヤ-ハク」の詩で著名。

花こよみ 001

詩のこころ無き身なれば、折りに触れ
古今東西、四季のうた、ご紹介いたしたく
(朗文堂ニュースより移転)

 

さまよいくれば 秋くさの
ひとつのこりて 咲きにけり
おもかげ見えて なつかしく
手折ればくるし 花ちりぬ

                                         ――― 佐藤 春夫

花こよみ 003

詩のこころ無きわが身なれば、折りに触れ
古今東西、四季のうた、ご紹介たてまつらん

吾 亦 紅 に 寄 す

夏――   風になびく青い草原は   海のうねりにも似て
渺たる高原のそこここに   たそかれが迫る

とおく はぐれ蝉か ひぐ
らしの聲
ひと叢の ワレモコウが 風に揺れている
ひめやかに 晩夏の気配が  艸叢を覆う

秋――  妍を競って咲き誇った高原の艸草が
慌ただしく  種子の実りを終える
ワレモコウは  仔鹿の脚にも似た か細い茎を艸叢に屹立す

艸叢から  ちいさなつぶやきが
「ねぇ、ねぇ、わたしって、きれい?」

晩秋――  花序のあえかな彩りは くらい赤褐色に色とりをかえ
万葉ひとは なんのゆえありて  かくも 可憐な
「 ワレ  マタ  ベニ  ナリ —— 吾 亦 紅 」の名を与えしか
寥風がつのる   真紅の鮮血ほとばしらせ 慟哭する花  ここにあり
「 ねぇ、ねぇ、わたしって、クレナイの花よ!」

        ―――― よみひと しらす

花こよみ 002

初   恋

詩のこころ、無き身なば
古今東西、四季折々のうた、ご紹介奉らん。

まだあげ初 ソ めし前髪の
林檎 リンゴ のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思いけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたえしは
薄紅 ウスクレナイ の秋の実に
人こい初 ソ めしはじめなり

わがこころなきためいきの
その髪の毛にかかるとき
たのしき恋の盃を
君が情 ナサケ けに酌みしかな

林檎畑の樹 コ の下に
おのずからなる細道は
誰 タ が踏みそめしかたみとぞ
問いたもうこそこいしけれ

                                                      ――――― 島崎藤村 ( 1872―1943 )