花こよみ 011
詩のこころ無き吾が身なれば、折りに触れ
古今東西、四季のうた、ご紹介いたしたく
ふるさとの夜に寄す
やさしいひとらよ たづねるな!
―― なにをおまへはして来たかと 私に
やすみなく 忘れすてねばならない
そそぎこめ すべてを 夜に……
いまは 嘆きも 叫びも ささやきも
暗い碧ミドリの闇のなかに
私のためには 花となれ!
咲くやうに ひほふやうに
この世の花のあるやうに
手を濡らした真白い雫のちるやうに――
忘れよ ひとよ……ただ! しばし
とほくあれ 限り知らない悲しみよ にくしみよ……
ああ帰つて来た 私の横たはるほとりには
花のみ 白く咲いてあれ! 幼かつた日のやうに
立原道造(1914-39 24歳数ヶ月で夭逝した詩人・建築家・造形家)