タイポグラフィ あのねのね*016
これはナニ? なんと呼んでいますか?
活版関連業者からお譲りいただきました。
◎ 元・岩田母型製造所、高内 一ハジメ氏より電話録取。(2012年01月04日)
《版見》と書いて《はんみ》と呼んでいました。
◎ 築地活字 平工希一氏談。(2012年01月10日)
ふつうは「はんめ」と呼んでいます。漢字はわかりません。ひとに聞かれると「活字の高さを見る道具」だと説明しています。
◎ 匿名希望 ある活字店談。(2012年02月02日)
うちでは「はんめんみ」と呼んでいます。
漢字は不確かながら「版面見」ではないかとおもいます。
◎ 精興社 小山成一氏より@メール(2012年02月15日)
小社では《ハンミ》と呼んでいたようですが、元鋳造課長の75歳男に訊いたところ、判面(はんめん)と呼んでいたとのことでした。
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活版愛好者の人気アイテムのひとつに《活字ホルダー》という簡便な器具があります。いまや《活字ホルダー》の名称とその役割は、ひろく知られるところとなりました。ところがこのちいさな器具は、5年ほど前までは使途も名称もわからなかったものでした。
会員の皆さまからの情報提供をいただきながら、朗文堂 アダナ・プレス倶楽部が中心となって、ようやく、その歴史・名称・役割があきらかになって、いまでは活版実践者はもとより、製本・皮革などの工芸者全般がひろく利用する便利な器具として復興 ルネサンスをみました。
ところで上掲の写真です。この器具の主要部は銅製で、高さは100円ライターとほぼ同じ、ちいさなものです。
中央下部、脚部の中央にある円形のネジをまわすと、中央手前の鉄製の金属片が上下する仕組みになっています。
取っ手のようにみえるループ状の金属片は、取っ手ではなくて、おもに固定の役割をします。
またルーペが付属したものもありますが、実際の使用に際しては、もっと倍率の高いルーペをもちいることが多いようです。
現在でも活字鋳造所ではしばしば使用されています。また、かつて活字の自家鋳造を実施していた大手印刷所などの企業では、名称も使途もわからないまま、なんとなく捨てがたい、愛らしい形状をしているために保存してあるものです。
この写真の器具を、2011年いっぱいをもって廃業された「有限会社長瀬欄罫」様からお譲りいただきました。最後まで日常業務に使用されていたために、銅製品に特有の錆びはほとんどみられませんが、長年の酷使のためか、脚部が曲がっているものもあります。脚部の素材は銅ですから容易に修整できますが、機能に障害はないためにそのまま使用していたようです。
またこの写真のほかに、「ウ~ン、最低でも30年は前だったかなぁ」とされる、木製箱入りの未使用のものもひとつあります。これは供給の途絶を危惧して購入したものだそうですが、愛用の器具が酷使に耐えたので、しまい込んだまま(忘れて)こんにちにいたったものでした。
ついで、周囲の活字鋳造所や、かつて活版印刷に関係していた皆さんにアンケート。
「これはナニに使用しますか(しましたか)? ナント呼んでいますか(いましたか)?」
アンケートの結果はご覧のようになりました。業界用語とは面白いもので、各社それぞれ独自の呼称をもって「版見ハンミ、はんめ、版面見ハンメンミ、判面ハンメン」などと呼んでいますし、呼ばれていました。
使用目的・使用用途は、どの回答者も、いいかたは様様でしたが、まったく同じでした。
現在までの調査では、この器具を紹介した資料は、東京築地活版製造所の見本帳の電気版イラストによる紹介を、1914年(大正3)にみます。また1965年(昭和40)の晃文堂のカタログに、欧文表記と製品写真の紹介をみています。外国文献には、いまのところ紹介をみていません。
ところがきょう2月23日、数台の欧文モノタイプを稼働させていた、ふるい活版印刷業者(現在はオフセット平版印刷に転業)を訪問したところ、偶然ながら、まったく同じ用途にもちいられていた外国製の器具を、「クワタ箱」を転用した「活版印刷の忘れがたいお道具箱」のなかから発見しました。これらの報告は改めてということで……。
どうしても知らなきゃガマンがならぬ、というお気の短いかたは、『VIVA!! カッパン♥』p.114に簡略な報告がありますので、そちらをどうぞ。