活版凸凹フェスタ*レポート10

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ここ、タイポグラフィ・ブログロール《花筏》では、肩の力をぬいて、
タイポグラフィのおもしろさ、ダイナミズムなどを綴れたらとおもいます。
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活版印刷の祭典 ですが
活版凸凹フェスタ2012のキーワードは
プライヴェート・プレス・ムーヴメント と
身体性 と 五感を駆使した創造の歓喜、
手引き活版印刷機です。
そして 活字にはじまり 活字におわります。  

 《きっかけになればいい……、それでも全力投球》
19世紀世紀末、
英国における造形運動のひとつに、アーツ&クラフツ・ムーヴメントがあり、プライヴェート・プレス・ムーヴメントがあった。このふたつの運動は、ほぼ表裏一体のものであった。
19世紀世紀末といえば、わが国は明治20年代にあたり、むしろ積極的に産業革命の成果を導入・享受し、富国強兵、殖産興国にひたはしっていた時代であった。当然彼我の環境にはおおきな相異があり、これらの「個人による運動」などは顧慮されるはずもなかった。

20世紀の初頭、アーツ&クラフツ・ムーヴメントは一周おくれで、ようやくわが国に到達した。しかしそれはジョン・ラスキンの唱導した造形運動を、バーナード・リーチ氏などによって「翻案」されたものであり、やがて民芸運動や工芸運動の一環として埋没し、費消されていった。
また武者小路実篤らの「新しき村」にも、調和的な共同体の理想を掲げ、都市をはなれて田園にむかうとする姿勢にも、アーツ&クラフツ・ムーヴメントの影響を看てとることができる。

いっぽう、プライヴェート・プレス・ムーヴメントに関しては、それなりの紹介書もあり、その「作品」もすくなからずわが国にも現存している。ただし、わが国の活字版印刷術≒タイポグラフィとは、産業革命の成果を十二分とりいれたもので、それをなんの疑いもなく受容してきたという経緯がある。
またタイポグラフィが本来内包している、技芸者・工芸者の誇りは持つゆとりもなく、「工業・産業」として経済利得追究の対象・手段になってきた、という不幸な歴史を背負っている。
すなわち、プライヴェート・プレス・ムーヴメントの「人物紹介」「作品紹介」はあっても、その精神はほとんど語られたことはない。

《かなりの粘着力をもって、プライヴェート・プレス・ムーヴメントに集中しました》
上野・日展会館で、来場者は活字版印刷術のいまを、様様な面からご覧になるはずである。そして企画展示の様様な告知物もご覧になるはずである。そこから、なにを読み解き、どう行動するのかは、まったく観覧者の自由意志に任されている。
なにもすべての船舶が、ひとつの港をめざして航海することはないように。それぞれがめざす母港は様様であって良い。

プライヴェート・プレス・ムーヴメントのメンバーは、
・なぜ、最初に活字(私家版活字、ハウス・フォント)をつくったのか。
・なぜ、それらの活字書体はほとんど現存しないのか。
・なぜ、ダヴス・プレスのコブデン-サンダースンと、エマリー・ウォーカーは、工房の閉鎖に際して
     そのハウス・フォント「ダヴス・ローマン」をテムズ河に投棄したのか。
・なぜ、ほとんどのプライヴェート・プレスはエドワード・プリンスに活字父型彫刻を依頼したのか。
・なぜ、ともに15世紀個人印刷所ニコラ・ジェンソンをモデルとしたダヴス・ローマンと、ゴールデ
     ン・タイ
プは、ともにエドワード・プリンスが彫刻したのか。そしてなぜ、かくも異なった表
     情をみせるのか。
・なぜ、プライヴェート・プレス・ムーヴメントのメンバーは、かくまで強く、動力式シリンダー印刷機  
     や、動力式プラテン印刷機ではなく、手引き印刷機の使用にこだわったのか。
・なぜ、かれらは労働の歓びを唱え、手引き印刷機の使用から、五感による造形の歓喜を謳歌し
     たのか。

これらの疑問は、会場にご来場いただけたら、ほとんど氷塊する疑問かもしれません。
そして出展者・出展企業・アダナ・プレス倶楽部がご提供する、活字版印刷術の実体験のチャンスを、ぜひとも有効にご利用ください。

《会場に足をお運びください。そして様様な印刷機と、印刷システムをご体験ください》

【使用活字書体】
アルバータス・タイトリング(Albertus Titling)  60pt.
アルバータスは、ベルトルド・ウォルプ(Berthold Wolpe 1905―1989年 ドイツ)によって設計された活字書体です。1932―40年にイギリスのモノタイプ社から数種類のシリーズ活字として発売されました。
今回使用する活字は、アルバータスの中でもタイトリング用の活字であり、大文字のみの活字書体です。ですから60pt. とはいえ、ディセンダーの部分がほとんど無い(ベースラインが下がっている)活字ですから、ほとんど72pt.もありそうな、迫力十分の活字です。

書体名「アルバータス」は13世紀のドイツの神学者であり哲学者であったアルベルトゥス・マグヌス(Albertus Magnus 1193頃―180年)に由来します。
ディスプレー・ローマンとして4ウェートが開発され、終筆の分厚いターミナルは、セリフとはまたちがった、とてもつよい力感があります。「M」の中央のストロークは中間より上部で留まり、「U」はスモール・レターの形象を踏襲しています。


Berthold Wolpe 1905―1989    Stefan Wolpe Society

ウォルプは、ドイツ・フランクフルトの近郊都市、オフェンバッハの出身で、前半生はドイツと英国を拠点に活動しました。1932年、ドイツに全体主義勢力の擡頭をみて英国に逃れました。
そこでウォルプは、スタンリー・モリスンの指名によって、金属板の上に文字を浮き彫りにするという画期的な手法で、最初のアルバータスを製作しました。すなわちアルバータスは、最初から彫刻の手法がもちいられて誕生した稀有な活字ともいえます。
活字はモノタイプ社でカットされ、1988年にはロンドン市のサイン用制定書体として、ストリート・ネームを含むひろい範囲でもちいられました。

それでは皆さま、上野・日展会館《活版凸凹フェスタ2012》の会場でお会いしましょう!