「てにをは」と「ヲコト点」
タイポグラファなら、文章作法の初歩として、「てにをは が 合わない」とされるのはまずいことぐらいは知っている。ところがこの漢文訓読法――漢字に日本語をあてて読むこと――の「(隠された)記号」ともいえる「てにをは」とはなにか、を知ることは少ない。そもそも漢文そのものに触れることが少なくなった現代においては、「てにをは」を、「弖爾乎波、天爾遠波」のように漢字表記しようとすると、結構苦労することになる。もちろんふつうのワープロ・ソフトでは変換してくれない。しかも歴史上、漢文の訓読は、諸流・諸家によって微妙にことなり、また、それぞれの漢文の訓読法をながらく秘伝としていたからより一層やっかいである。
「てにをは」を知るためには、すこし面倒だが「ヲコト点 乎古止点」を知ると容易に理解できる。ここからは『広辞苑 第4版』を案内役としたい。ただし、同書電子辞書をもちいると、第5版をふくめ、ほとんどの電子辞書には図版がないために、理解しにくくなる。ここは面倒でも重い紙の『広辞苑』の出番となる。
また文献としては、『てにをはの研究 日本文法』(広池千九郞 ヒロイケ-セン-クロウ 1866-1938 早稲田大学出版部 明治39年12月 国立国会図書館 請求記号YMD78491)がある。Website情報で簡便に知りたければ、松本淳氏の「日本漢文へのいざない」 が平易でわかりやすく説いている。
以下に〔乎古止点〕の図版を2点紹介する。下図1はポイントを点(ドット)であらわしており、上部右肩を上から順によむと「ヲコト」となり、「ヲコト点、乎古止点」の語源となったものである。
下図2はポイントを横棒(バー)であらわしている。このうちのいくつかは、のちに紹介する、いわゆる「カタ仮名合字」の元となったと考えられる。
¶ を-こと-てん【乎古止点】 漢文の訓読で、漢字の読みを示すため、字の隅などにつけた点や線の符号。その形と位置とで読みが決まる。たとえば、もっとも多くおこなわれた博士家点 ハカセ-ケ-テン では、「引」の左下の隅に点があれば「引きて」と読み、左上の隅に点があれば「引くに」のたぐいとなる。したがって「ヲコト点、乎古止点」とは、図に表した右上の2点をとって名づけられた。なお漢字の「乎古止」は、「ヲコト」の万葉仮名表記である。
¶ て-に-を-は【弖爾乎波、天爾遠波】 漢文の訓読で、漢字の読みを示すため、字の隅などにつけた点や線の符号。その形と位置とで読みが決まる。たとえば、もっとも多くおこなわれた博士家 ハカセ-ケ がもちいた「ヲコト点」の四隅の点を、左下から時計回りに順に「てにをは」と読んだことに由来する名称。