カテゴリー別アーカイブ: 年賀状

【サラマ・プレス倶楽部】 2017年 年賀状のご紹介

2017年 年賀状(絵柄面) 2017年 年賀状(宛名面)ジョン・ラスキン著『ゴシックの本質(原題:The Nature of Gothic)』は、1892年にケルムスコット・プレスより出版されました。
この書籍は、ラスキンが1851-3年に発表した著作『ヴェネツィアの石 (原題:The Stones of Venice)』の第2巻第6章の部分に、ウィリアム・モリスが「序文」を加えて再出版したものです。

John_Ruskin[1]ジョン・ラスキン(John Ruskin 1819-1900)は、イギリスのヴィクトリア朝時代の芸術評論家です。裕福な葡萄酒商人のひとり息子として生まれたラスキンは、イギリスを代表する画家ターナーのコレクターでもあり、ターナーとの交流をとおしてイギリス最初の美術評論家となりました。

その著述は、のちに象徴主義やアーツ・アンド・クラフツ、アール・ヌーヴォなどといったムーブメントに連なる「ラファエル前派」の芸術家たちを触発し、また、精神面だけでなく、パトロンとしても経済的に彼らの支えとなりました。


産業革命を経たこの時代の大英帝国は円熟期をむかえていました。大量生産・大量消費時代の幕開けにより、商品の氾濫とそれを売るための市場の獲得や宣伝広告が必要となりました。こうした時代を反映したいわゆる「ヴィクトリアン・タイポグラフィ」が横行したのもこの時代でした。
しかしながら、成熟はまた終わりのはじまりでもあります。近代化のいっぽうで、時代や社会の流れに反発して逆行するかのような回帰現象がおこりました。

建築の分野では「ゴシック・リヴァイヴァル」がおこり、ゴシック様式の再発見と再評価がおこなわれました。
絵画の分野でも、イタリア・ルネサンスの完成者としてアカデミズムが規範とする ラファエロ・サンティ (Raffaello Santi  1483-1520)よりも、前の時代に立ち返り、素朴で、ありのままの自然を忠実に再現しようとする「ラファエル前派」が登場しました。
それはまた、近代化によってもたらされた画一的で人工的な形式美に対する問題提起でもありました。

ラスキンは、『建築の七燈』、『ヴェネツィアの石』、『胡麻と百合』、『近代絵画論』などを著し、造形家はもちろん、社会や国境を越えて、多くの文筆家や思想家にも影響をあたえました。
また、ラスキンは、評論家や思想家としてだけではなく、スケッチや設計製図にも優れ、その精緻な画力が著作にさらなる奥行や説得力をあたえています。

さて、そのラスキンの影響を受け、アーツ・アンド・クラフツ・ムーブメントの旗手のひとりとされる ウィリアム・モリス (William Morris 1834-1896)ですが、その私家版印刷所ケルムスコット・プレスから再出版された『The Nature of Gothic』は、芸術と労働、職人による手仕事の尊さを体現したかった点は理解できますが、残念ながら、タイトルと内容、書体の選択とデザインには、いくぶんかの違和感を覚えます。

もし、モリスの手がけた書物が、「ケルムスコット・プレス」シリーズとして、内容とは関係なく、一書体主義を貫き通すことを定型としたシリーズであったなら、それはそれで納得できたのですが、のちにモリスがゴシック体の活字書体(いわゆるトロイ活字とチョーサー活字)を作ってしまっため、それ以前にジェンソン・ローマン(いわゆるゴールデン活字)で組版された『ゴシックの本質』には、無念さを感じてしまうのです。

サラマ・プレス倶楽部の年賀状は、毎年、活字書体の歴史順に一書体づつ使用してきましたが、昨年の年賀状でヒューマン・サンセリフのカテゴリーの書体まで到達しましたので、今年はまた、ブラックレター(ゴシック体)の活字書体に戻ってみました。
使用した活字書体は24pt.の「オールド・イングリッシュ・テキスト」です。

[サラマ・プレス倶楽部ニュース:年賀状まとめ

アダナ・プレス倶楽部 2015年の年賀状

2015年賀状絵柄面 2015年賀状宛名面
アダナ ・ プレス倶楽部の年賀状は、例年、数ある欧文活字を時代性によっていくつかのカテゴリーにわけ、それを歴史順に一書体ずつ選択して製作してきました。

これまでの年賀状では、ブラック ・ レター、ヴェネチアン ・ ローマン、オールド ・ ローマン、トランジショナル ・ ローマン、モダン ・ ローマン、クラレンドンを経て、昨年からはサンセリフのカテゴリーに入りました。
昨年は 「 グロテスク ・ サンセリフ 」 の 「 フランクリン ・ ゴシック 」 を使用しましたが、今年は 「 ネオ ・ グロテスク 」 の 「 ヘルベチカ 」 の登場です。
今年の年賀状の活字は 絵柄面に 24pt. と 18pt. のヘルベチカ、二号と三号のゴシック体の和文活字を使用しました。
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これまでは毎年、書体の歴史順に、さまざまな欧文活字書体を順繰りに愉しく使用してきましたが、サンセリフのカテゴリーに入った途端に、正直なところあまりおもしろさがなくなってきました。
ちょうど 『 いきなり黄金伝説 』 というテレビ番組の 「 ◯ ◯ のメニューを全部食べつくす 」 という企画で、「 デザート 」 のジャンルに突入した状況といえば、おわかりいただけますでしょうか。

一点一点は美味しいデザートでも、甘いものが何点も続くと食傷気味となってしまう、あの感じに近いものがあります。
しかし、サンセリフのカテゴリーには、まだ 「 ジオメトリック ・ サンセリフ 」 と 「 ヒューマニスティック ・ サンセリフ 」 のジャンルも残っています。 パフェとチーズケーキの後に、まだホットケーキとお汁粉が待っている有様のようです……。

さて、『 いきなり黄金伝説 』 といえば、よゐこの濱口氏の 「 捕ったど~!」 の雄叫びがこだまする 「 無人島生活 」 も人気のテレビ企画です。
このコーナーにおいて、濱口氏と有野氏が、お米の代わりに、小麦粉を練った物を、ちいさくちぎり、丸めて、米粒状にする作業を夜通しおこなう 「 チネリ米 」 をつくるのも番組の恒例となっています。
中国の北部では、この 「 チネリ米 」 が盛んにおこなわれていることを近年知りました。

中国南部、おおむね淮河ワイガ、揚子江(長江)あたりより南の地方は、温暖な気候でお米が採れますが、北部は寒冷な気候でお米が採れないために、主食はお米ではなく、小麦粉が中心となります。
そのため、淮河や黄河より北の地方では、小麦粉をもちいた麺や餃子や饅頭(マントウ)などが発達しており、「 チネリ米 」 のようなパスタ状の食品も存在します。

この中国のチネリ米は、本来は家族や仲間が食卓に集まって、前菜を食べながら、にぎやかに会話をしながら、ワイワイと愉しくチネッて作るものだそうです。
最近は時間や労力を惜しんで、飲食店であらかじめ準備されたものが出されることも多くなっていて、西安で羊肉が入った麺料理の店に入ったとき、店の従業員と家族が、お客さんに出すための 「 チネリ米 」 を総出でチネッている光景を見て微笑ましくなりました。

下掲の写真は、今年の01月10日に、中国北京の陝西省 ・ 西安料理のお店に入ったときに食べた 「 羊肉泡馍 」 という料理で、羊の肉とチネリ米が入っています。 安史の乱―― 唐の玄宗の末年755-63年に起こった叛乱で、安禄山父子・史思明父子が中心。叛乱の鎮圧後に各地に強大な権限をもった節度使がおかれ、それが軍閥化するなどして唐は衰退に向かった ―― にまつわる料理だそうです。
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写真上) さまざまな前菜のあとに、メインの「羊肉泡馍」。チネッた小麦粉と、羊肉が中心で、付けあわせに豆板醤、ニンニクの酢漬け、青菜などが登場します。
写真下) 陝西省料理ですので、北京市民にわかりやすく「羊肉泡馍」の特徴を解説したパネル。

2015年アダナ・プレス倶楽部の年賀状の絵柄面には、
子 曰 過 猶 不 及 ―― 『論語』先進篇
Less is more, More is Less ―― ミース・ファンダー・ローエ
のよく似たことばを組版しました。つまりなにごとも「過ぎたるは及ばざるが如し」です。
しかしながら、決して 「 引き算のデザイン 」 を賛美するわけではありません。「 侘 ・ 寂 」 といえば聞こえが良いですが、近年のわが国のデザインは、すこし 「 引き算 」 ばかりに偏り過ぎてきたように思います。 「 引き算 」 のデザインも 「 過ぎたるは及ばざるが如し 」 です。

「 引き算のデザイン 」 と 「 足し算のデザイン 」 双方のバランスが俯瞰できてこそ、いまだ 「 1920年代モダン 」 の影響が色濃いわが国のデザインが、幼いモダニズムから脱却し、デザインの未来への扉を開く力となることでしょう。
そのようなことを考えながら、20世紀モダンの落とし子たるサンセリフ群と格闘する日日がまだまだ続きそうです……。

2014年 アダナ・プレス倶楽部の年賀状

adana年賀 アダナ・プレス倶楽部の年賀状は例年、数ある欧文活字を、時代性によっていくつかのカテゴリーにわけ、それを歴史順に一書体づつ選択して制作してきました。
これまでの年賀状では、ブラック・レター、ヴェネチアン・ローマン、オールド・ローマン、トランジショナル・ローマン、モダン・ローマン、クラレンドンを経て、今年はサン・セリフの「フランクリン・ゴシック」を使用しました。

「フランクリン・ゴシック」は、アメリカン・タイプ・ファンダース(ATF)のチーフ・デザイナーをつとめた、モーリス・フラー・ベントン(1872-1948)による活字書体です。M. F. ベントンは、200以上の活字書体を設計した、多産家の活字設計士として知られています。
このようにたくさんの活字書体を製造することができた背景には、発明家で、おなじく活字設計士でもあった、父 リン・ボイド・ベントンの開発による、いわゆる「ベントン機械式彫刻機」によって、活字父型および活字母型の製造効率が飛躍的に向上したことも見逃せません。

活版印刷時代の活字書体をたくさん紹介した、イギリス版活字書体事典『 ENCYCLOPAEDIA OF TYPE FACES 』の記載によりますと、M. F. ベントンが「フランクリン・ゴシック」を、アメリカン・タイプ・ファンダース(ATF)からデビューさせたのは1903年のことです。
おなじ年にM. F. ベントンは、やはりアメリカン・タイプ・ファンダース(ATF)から、オルタネート・ゴシックと、エージェンシー・ゴシックも発表しています。
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ちょうどその頃、おなじアメリカ大陸で偉業を成し遂げたふたりの兄弟がいました。
ふたりとは、ライト家の5人兄妹の3男、ウィルバー・ライト(1867-1912)と、4男、オーヴィル・ライト(1871-1948)です。
ライト兄弟 として知られるウィルバーとオーヴィルは、奇しくも「フランクリン・ゴシック」が誕生した年とおなじ1903年に、人類初の有人動力飛行に成功しました。20世紀の初頭、まさに機械産業時代の幕開けを告げるできごとであり、活字書体の誕生でした。

あまり知られていませんが、ライト兄弟は、飛行機の開発のほかに、印刷機械や活版印刷業とも、とてもゆかりの深い人物でした。飛行機の開発に成功する以前、10代の末頃のライト兄弟は、活版印刷機や紙折り機をみずから製作し、取材記者もこなして、新聞『 West Side News 』の発行をしていました。
のちに「ライト&ライト印刷所」を創業して印刷業を続けるかたわら、自転車の製造・販売、そして、子供の頃からの夢であった飛行機の開発へとつなげていきました。

今回の年賀状では、ライト兄弟の飛行実験の写真を亜鉛凸版で、そして、24pt.フランクリン・ゴシックの活字を用いて、兄ウィルバーの言葉を活字組版しました。

動力がなくとも飛ぶことはできる。
しかし、知識と技術なしには
大空を翔けることはできない。
―― ウィルバー・ライト――

動力のない、手動式の活版印刷機をもちい、不自由で限られた活字を駆使して、活版印刷の知と技と美の研鑽をつづけている、アダナ・プレス倶楽部会員の皆さまへ ────────
活版印刷の普及と存続のために、アダナ・プレス倶楽部の機材の製造と供給を支えてくださっている、おおくの職人の皆さまへ ────────
すべての、身体性を伴なった「ものづくり」の現場の皆さまへ ────────

感謝と尊敬と応援の意を込めて、今年の念頭のご挨拶に代えて、このことばを贈ります。

adana年賀宛名面ところでフランクリンといえば、時代はさかのぼりますが、アメリカ建国の父のひとりであり、避雷針などの発明家としても知られる、ベンジャミン・フランクリン(1706-1790)も、若いころには印刷業を営んでいました。
まだアメリカに活字鋳造所が無い時代、はるばる太平洋を渡ってイギリスまで活字を買いに行ったり、活字やインキを自作したり、活版印刷機の改良をおこないました。
また、図書館をつくったり、新聞を発行することなどを通して、アメリカにたくさんの印刷所ができるように尽力しました。

なお、「フランクリン・ゴシック」という活字書体の名称は、「世界印刷術中興の祖」ともされる、ベンジャミン・フランクリンにあやかってつけられた名前かどうかは定かではありません。

アダナ・プレス倶楽部 2013年版年賀状製作の記録


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アダナ・プレス倶楽部の年賀状は毎年、数ある欧文活字を、時代性によっていくつかのカテゴリーにわけ、それを歴史順に一書体づつ選択して制作しています。
ブラック・レター、ヴェネチアン・ローマン、オールド・ローマン、トランジショナル・ローマン、モダン・ローマンを経て、今年はエジプシャンの「クラレンドン」の登場です。

エジプシャンは別名スラブセリフ(Slab Serif)とも呼ばれる、板状の太いセリフをもった書体群です。
この書体が誕生したきっかけは、1798年からはじまったナポレオンのエジプト遠征に端を発し、ヨーロッパでは「東方への関心」とあわせて、熱狂的なエジプト・ブームが巻き起こりました。
そのブームにあやかって、たとえそれがエジプトとはまったく関連性が無いものであっても、さまざまなものや商品に「Egyptian──エジプトの」という名前が与えられていきました。

ちょうどその頃、活字書体の世界では、産業革命によって大量生産されるようになった商品を宣伝するために、誘目性の高いディスプレイ書体が求められていました。
そんな時代性を背景として登場した、この独特の太いセリフが特徴的な書体群は、当時の風潮と時勢から「エジプシャン」というカテゴリー名を授けられました。

今回はそのエジプシャンの書体群の中から、「クラレンドン」の活字書体を用いて組版・印刷をおこないました。

テキストは、フランスの詩人アルチュール・ランボオ(1854-1891)の詩集の英語訳から、「彼女はエジプトの踊り娘か?……」の一節を引用しました。
和訳は、中原中也の訳を参考にしながら翻訳しました。

魅惑的な踊り娘の図版は、パリの社交界の寵児であり、女性スパイの代名詞ともなった マタ・ハリ(1876-1914)の写真です。
今回は3色に分版したものを、線数の異なる亜鉛凸版にしてみました。


図版分色データ作成:松尾篤史さん
亜鉛凸版製版協力:真映社

通常の活版印刷では、写真版の線数は80-100線程度が印刷に適するといわれていますが、印刷用紙を写真版の再現にも適した用紙を選択して試し刷りの結果、175線でも予想以上に効果的な印刷ができましたので、本刷りには175線の亜鉛凸版を選択して印刷しました。

「印刷術」とは、同一の情報を、敏速かつ大量に複製するための手段ですが、実は印刷、とりわけ手動活版印刷機で一番難しいのが、印刷物のクォリティを同じように保つようにコントロールすることです。
インキの量や温度(気温はもちろん、印刷中の摩擦熱によってインキの固さやローラーの弾力、印刷版の状態などが変化します)などの影響によって、刻々と印刷物の仕上がりが異なってきます。
しかしその反面、インキの量や色味などを、実験的に微妙に、さまざまに変えて楽しむことができるのが、手動式活版印刷機で少量印刷をおこなう Adana-21J ユーザーのおおきな楽しみのひとつです。

3色重ね刷りだけでなく、2色だけのものも落ち着きのある印刷効果を得ました。

2版目は当初、金色のインキで刷る予定でしたが、金は印刷中と、ドライダウンしたときの印象がかなり異なるため、黄色でも試すことにしました。

当時の西洋人がイメージしたであろう東洋のエキゾチシズム(おそらくエジプトも東南アジアも、西洋人からみたら一緒くた)に想像を膨らませて、蛍光色も踊り娘のマタ・ハリには合うのではとおもい、いろいろと組み合わせを試してみました。
このようなさまざまな試みをかさね、2013年版のアダナ・プレス倶楽部の年賀状を作成いたしました。おたのしみいただけましたら幸いです。

2011年アダナ・プレス倶楽部の年賀状

例年、アダナ ・ プレス倶楽部の年賀状は毎年、数ある欧文活字のなかから歴史順に一書体づつを選択して制作しています。
ブラック ・ レター、ヴェネチアン ・ ローマン、オールド ・ ローマンを経て、トランジショナル ・ ローマンのなかから、昨年の 「 バスカヴィル 」 に続いて、今年は 「 フールニエ 」 の出番となりました。

「 フールニエ 」 は18世紀のパリで活躍した活字製作者  ピエール ・ シモン ・ フールニエ に由来する活字書体です。 また、フールニエは、華やかなりしフランス宮廷文化のロココ様式を反映させた多様な装飾活字も製作しました。
今回はこの 「 フールニエ 」 書体と装飾活字を使って、18世紀のシャンソン 「 愛の歓び(Plaisir D’aour) 」 を Adana-21J で印刷しました。

タイトルは 「 フールニエ ・ ル ・ ジュン 」 という大文字のみの見出し用書体で組みました。
装飾部分は、6 ポイント、8 ポイント、12 ポイントを中心に、こまかな活字を組み合わせています。
まわり枠の部分も、輪郭罫ではなく、装飾活字を組み合わせて組んだもので、よく見るとそれぞれのつなぎ目の部分に隙間が潜んでいます。

このつなぎ目の隙間や、刷り重ねのズレを印刷物上でいかに目立たないようにするかということが、活字鋳造の妙と、組版 ・ 印刷の腕の見せ所のひとつなのですが、パソコンで版下を作製した凸版ではなく、活字組版をもちいた印刷物であることに気がついてもらえる程度に、若干の隙間や版ズレはあえて残しておくべきかどうか……と葛藤しながら印刷を進めました。

活字の鋳込み具合、活字版をチェースに組みつける際のジャッキの締め具合、インキの量、圧力や刷りムラの調整、印刷機に印刷用紙を1枚づつ手差しする際の紙の置き具合、印刷用紙の反り具合……些細なことが積み重なって、刷り位置がズレてしまったり、そのすこしづつのズレがたび重なってふしぎとそれなりに納まったり……..。
年賀状をお送りした会員の皆さまには、若干の版ズレは活字ならではの愛嬌として受け止めていただけますと幸いです。

同じ組版ですこしづつ、さまざまな紙色をためして、雰囲気の違いを味わえるのも、自分で印刷する愉しみのひとつ。
会員の皆さまのお手元には、どの色の歌が届きましたでしょうか?