《フランス国立印刷所 Imprimerie Nationale の新ロゴの紹介 YouTube 1:42》
フランス国立印刷所では、先般シンボルロゴを近代化して、Website に動画をアップしました。同所のあたらしいシンボルロゴのモチーフは、創立以来変わらずにもちいられてきた「サラマンダー」です。
アダナプレス倶楽部では、2008年の年賀状で「活版印刷術とサラマンダーのふしぎな関係」をご紹介してきました。ここにあらためてフランス国立印刷所で、あたらしく再生されたシンボルロゴをご紹介いたします。
[取材・翻訳協力:磯田敏雄氏]。
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このサラマンダーにはウーパールーパーという愛称がありますが、正式には メキシコサラマンダー(Ambystoma mexicanum)とされ、もともとはメキシコの湖沼に棲む、両生綱有尾目トラフサンショウウオ科トラフサンショウウオ属に分類される有尾類だそうです。その愛称ないしは流通名がウーパールーパーとされます。
わが家の怪獣!? サラマンダーです。
上ⅠⅡ) アルビノ種のウパルンⅠ世。飼育に未熟で夏の猛暑対策が不十分で短命におわりました。
中・下) 水槽が空になってさびしかったので、9月にウパルンⅡ世(雄らしい)を、10月にウパランⅠ世(雌らしい)を購入しました。ともに旺盛な食欲ですが、給餌のとき以外はいつもドテッとしていて運動不足が心配です。体躯は写真の倍以上になりました。無邪気であいらしいいきものです。
サラマンダーとは、欧州で錬金術が盛んだったころに神聖化され、パラケルスス によって「四大精霊」とされたものです。
四大精霊とは、地の精霊・ノーム/水の精霊・オンディーヌ/火の精霊・サラマンダー/風の精霊・シルフです。
このことは欧州ではひろく知られ、アドリアン・フルティガーは、パリのドベルニ&ペイニョ活字鋳造所での活字人としてのスタートのときに、「水の精霊/オンディーヌ Ondine」と名づけたエレガントな活字を製作していました。
この欧文活字「オンディーヌ」と、和文電子活字「銘石B」 をイベントサインとしてもちいたのが《Viva la 活版 Viva 美唄》でした。
【リンク:花筏 朗文堂-好日録032 火の精霊サラマンダーウーパールーパーと、わが家のいきものたち 】
《Toute la vérité sur la Salamandre —— サラマンダーの事実のすべて》
フランス国立印刷所公開フライヤーより抜粋
考古学事典と紋章学の説明からの引用
1901年 ケリー・ド・ガルレー(Kelley de Galurey)
空想上のトカゲ、サラマンダーは、いつも激しい火焔と、高い火柱に囲まれている。その形姿は、背が丸く、首と尻尾は長く、先は尖って、背中は持ち上がっていると想像されている。そして四足の足は、ギリシャ神話の グリフォン (Griffon, Gryphon) に似せて描かれている。
すなわち紋章に登場する多くのサラマンダーは、その実態とはかけ離れ、むしろ神話に描かれたサラマンダーと多くの関係がある。
神話でのサラマンダーは、怪奇な姿で、体長がながく、尖った尾を有している。四本の足は横から見るとおなじ長さになっていて、水かきはついていなく、爪も四本の指についていない。
体はくすんだ黒色で、生生しい黄色の斑点がちりばめられている。両脇は結節で、蛇にも似た粘り気のある体液が染み出ている。
【リンク:サラマンダーのアルビノ種、ウーパールーパー画像集 —— こちらは可愛い】
【リンク:サラマンダーの画像集 —— こちらはすこし不気味なものがあります】
神話のサラマンダーは、また、おおくの寓話につつまれている。サラマンダーは紅蓮の焔の真ん中に棲息しており、もしかまれると、つよい毒に侵されるとするものだ。
サラマンダーは確かに、体表から白っぽいねばねばした体液を分泌する。その量はとても多く、もしサラマンダーを炎のなかに入れても、火の熱から身を守り、なかなか死なない。この体液には、強烈な臭いと、渋い味があるが、少しも毒性はない。
それでも奇っ怪な外観と、柔らかくべとついた躰は、ふつうは有害な生物かとおもわせる。ところが実際のサラマンダーは、害意の無い生物で、弱くて臆病であり、ほとんど耳がきこえず、目も見えないのである。
古代人は、サラマンダーを炎の表象として崇めていた。
詩人たちは、愛の価値と象徴のシンボルにした。
歴史家、考古学者たちは、逆境にあっても誠実な典型の生物と見なしていた。
そしてルーバン・ジェリオ(Louvan Géliot)によれば、サラマンダーは高潔と勇気を表しているのである。
吾は火焔をはぐくみ、それを滅ぼす
《国立印刷所の新しいロゴ —— Le nouveau logo de l’Imprimerie Nationale》
フランス国立印刷所は定款を変更して、あたらしいロゴとして「サラマンダー」を採用した。あたらしいロゴとして、神話の生物サラマンダーを選定したのは、フランス国立印刷所のながい歴史と、象徴主義にふかく結びついている。
フランスヴァロワ朝、第9代フランソワ1世 (François Ier de France, 1494-1547)は、フランスにルネサンスをもたらし、また1538年にフランス王室で印刷事業をはじめたひとである。フランス国立印刷所は、この年1538の創立をもってその淵源としている。
フランソワ1世は、みずからと、その印刷所の紋章として、フランス王家の伝統としての百合を象徴する王冠 【画像集リンク:フランス王家の紋章 】 とともに、火焔のなかに棲息するサラマンダーを取りいれた。
そこにはまた、ギャラモン(Claude Garamond, 1480-1561)の活字父型彫刻による標語を付与した。
「Je me nourris de Feu et je L’éteins 意訳:吾は火焔をはぐくみ、それを滅ぼす」
このサラマンダーは何世紀もの歴史のなかで、すこしずつ意匠をかえて、フランス国立印刷所の紋章としてもちいられてきた。それらの意匠変遷の記録のすべてはフランス国立印刷所にのこされているが、21世紀のはじめに、どれもが幾分古ぼけた存在とみなされ、それを「モダナイズ」する計画がもちあがり、フランス国立印刷所のデザインチームが改変にあたった。
その結果よみがえったサラマンダーは、伝統を継承しつつ、かぎりなく前進をつづける、あたらしいフランス国立印刷所のシンボルとして再生された。