【展覧会】間村俊一 版下ガラパゴス

 

展覧会】  間村俊一 版下ガラパゴス
【会 場】  ウィリアム モリス  珈琲&ギャラリー
          会場案内図:こちら
【期 間】   2013年05月01日―05月31日
        12:30-18:30 日・月・祝日と第3水曜日は休業
※昨今絶滅危惧種に指定された版下原稿を完成した書物とともに展示します。────────
卯の月 4月がおわり、きょうから五月サツキです。
皆さまご健勝で、GWを楽しみ、お仕事にいそしまれておられることと存じます。
朗文堂では例年この時期に《活版凸凹フェスタ》を開催してまいりましたが、ことしは7月に移行した《Viva la 活版 Viva 美唄》の開催準備のため、その作品づくりと、タイポグラフィ・ゼミナール資料整備のために、結局連休はふきとんでしまいました。

【おぼろ月と穀雨 コクウ】
春の終わりのころに、穀物をうるおす春の雨を「穀雨」といいます。またこの季節の終わりには八十八夜もおとづれます。なにかと雨の多い季節です。

ことしは「爆弾低気圧」などと呼ばれて、かなり暴れていましたが、じつは「穀雨」の名がしめすように、春の雨は作物にとっては恵の雨です。ですからこの時期の雨には、さまざまな名前がつけられています。

穀物をはぐくむ雨を「瑞雨 ズイウ」といい、春の艸木をうるおす雨を「甘雨 カンウ」といいます。春の長雨は「春霖シュンリン」、はやく咲いてちょうだい……と開花をうながす「催花雨 サイカウ」、菜の花の咲くころに降る「菜種梅雨」、そしてながく降りすぎて、うつぎの花が腐ってしまうことをあんずる「卯の花くずし」などの情緒ゆたかな名称があります。

装本家にして俳人/間村俊一氏は、展覧会に際して一句ものしています。

    初夏の 版下あはれ 書物果つ

「版下」とは、写真製版を前提とした製版工程の前作業のことで、写植活字文字組版、レタリング、図表などを厚手の台紙に貼っていたものを指します。
この「版下」ということばは、使用期間が短かったので、英語もさまざまで定着せずに、Comprehensive, Comp., Block Copy,  Camera-ready Copy などと様様に呼ばれていました。
わが国でも「関西では はんじた」と濁り、「関東では はんした」と清音がふつうでした。

関東と関西の距離感がなくなり、ことばもほとんどが共通語になりましたが、意外に印刷界に頑固にのこっていることば(業界用語)が、パッケージ製作などにおける型抜きの「トムソン抜き、ビク抜き」のようです。
こうした違いをもたらした原因は、輸入代理店のちがいから、「関西ではThompson社製の機械がもちいられたことが多く、その作業をトムソン抜きと業界用語で呼んだ」。いっぽう、「関東ではVictoria社製の機械がもちいられたことが多く、その作業をビク抜きと業界用語で呼んだ」とする説が有力です。

間村俊一さんは、ご自身のことをあまりお書きになりません。ですから「版下 を はんじた、はんした」のどちらで呼ばれているか、「トムソン抜き/ビク抜き」のどちらをもちいているかは、わかりません。その「版下」の名前はともかく、絶滅危惧種に指定された!? 「版下製作」に従事したかたは、もう45-50歳以上になったようです。

ところで手狭な小社には、マップケースいっぱいの「版下」が、捨てるに捨てられずにたくさんあります。そして印刷工場には、保管を依頼している製版フィルム(ポジフィルム)が山積みで、もっと歴史のある活版印刷工場には「紙型 Paper mold,  Paper matrix」が山をなしています。

ある印刷工場主がこぼしました……。
「毎年 年末に、紙型とポジフィルムの処分許可を出版社に文書でもうしでているんだけど、わかい担当編集が、紙型? ポジフィルム? よく分からないのでそのまま保存してください」
中堅老舗印刷工場といえる同社には、床面積でいったら、ほんんとうにテニスコート一面分ほどの「紙型・フィルム」が、ほとんど出番のないままに眠っています。
印刷設計士(グラフィックデザイナー)、編集者などが、印刷の現場を訪問しなくなって久しいものがあります。
間村さん、あはれなのは「版下」だけでは無いようですよ。