例年、アダナ ・ プレス倶楽部の年賀状は毎年、数ある欧文活字のなかから歴史順に一書体づつを選択して制作しています。
ブラック ・ レター、ヴェネチアン ・ ローマン、オールド ・ ローマンを経て、トランジショナル ・ ローマンのなかから、昨年の 「 バスカヴィル 」 に続いて、今年は 「 フールニエ 」 の出番となりました。
「 フールニエ 」 は18世紀のパリで活躍した活字製作者 ピエール ・ シモン ・ フールニエ に由来する活字書体です。 また、フールニエは、華やかなりしフランス宮廷文化のロココ様式を反映させた多様な装飾活字も製作しました。
今回はこの 「 フールニエ 」 書体と装飾活字を使って、18世紀のシャンソン 「 愛の歓び(Plaisir D’aour) 」 を Adana-21J で印刷しました。
タイトルは 「 フールニエ ・ ル ・ ジュン 」 という大文字のみの見出し用書体で組みました。
装飾部分は、6 ポイント、8 ポイント、12 ポイントを中心に、こまかな活字を組み合わせています。
まわり枠の部分も、輪郭罫ではなく、装飾活字を組み合わせて組んだもので、よく見るとそれぞれのつなぎ目の部分に隙間が潜んでいます。
このつなぎ目の隙間や、刷り重ねのズレを印刷物上でいかに目立たないようにするかということが、活字鋳造の妙と、組版 ・ 印刷の腕の見せ所のひとつなのですが、パソコンで版下を作製した凸版ではなく、活字組版をもちいた印刷物であることに気がついてもらえる程度に、若干の隙間や版ズレはあえて残しておくべきかどうか……と葛藤しながら印刷を進めました。
活字の鋳込み具合、活字版をチェースに組みつける際のジャッキの締め具合、インキの量、圧力や刷りムラの調整、印刷機に印刷用紙を1枚づつ手差しする際の紙の置き具合、印刷用紙の反り具合……些細なことが積み重なって、刷り位置がズレてしまったり、そのすこしづつのズレがたび重なってふしぎとそれなりに納まったり……..。
年賀状をお送りした会員の皆さまには、若干の版ズレは活字ならではの愛嬌として受け止めていただけますと幸いです。
同じ組版ですこしづつ、さまざまな紙色をためして、雰囲気の違いを味わえるのも、自分で印刷する愉しみのひとつ。
会員の皆さまのお手元には、どの色の歌が届きましたでしょうか?