朗文堂 アダナ・プレス倶楽部 こんな時代だから、活版印刷機を創ってます。

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コラム No.008

長崎土産はカステラではなく、最中 ?

いえ、いえ、素晴らしい新鋳造活字でした

本木昌造活字復元プロジェクトの成果品をご寄贈いただきました


IGAS 2007 への出展を契機として、近代活字版印刷発祥の地、長崎の NPO 法人・近代印刷活字文化保存会から、朗文堂 アダナ・プレス倶楽部に素晴らしいプレゼントをご寄贈いただきました。

IGAS 2007 の会期が間近になったある日、首を長くして待っていたその荷物が長崎から届きました。ずっしりとした重量に圧倒されながら、早速みんなで慌ただしく開梱作業がはじまりました。キャラクター毎にひとつひとつ丁寧に新聞紙で包装されたそれが、ぎっしりと詰まったようすはまるで、お菓子の「最中」が並んでいるようにも見え、ちょっと美味しそう……。包装資材がすべて、普段あまり目にすることのない印刷業界専門の新聞紙(それも複数)をリサイクルされたものであったことから、その専門性、種類の多さ、掲載記事に目を奪われ、肝心な開梱作業がなかなか進みませんでした。

長崎からご寄贈いただいた品は「和様三号平仮名/片仮名活字」のセットでした。この活字は明治最初期に長崎の本木昌造らによって造られ、わが国独自にして、最初の、本格的な鋳造活字書体とされています。その活字父型ともいえる木製の「種字(たねじ)」は、長崎諏訪神社資料館「長崎諏訪の杜文学館」に所蔵されており、その版下の書き手は、池原香穉(かわか)とも、本木昌造とも、陽其二(ようそのじ)ともされますが、確証はありません。それでもこの「種字」から誕生したとみられる書物は、長崎・大阪・京都・横浜・東京を中心に、たくさん現存しています。

長崎で新鋳造された「和様三号平仮名/片仮名活字」]

長崎で新鋳造された「和様三号平仮名/片仮名活字」

この「種字」をもとに、明治初期さながらの技法によって、新たに木製の「種字」を彫刻し、活字電鋳(電胎とも)母型を造り、金属活字を復元するプロジェクト、「本木昌造・活字復元プロジェクト」が展開しました。主唱団体・企業は、本木昌造顕彰会(会長・内田信康氏)、株式会社モリサワ(会長・森澤嘉昭氏)、印刷博物館、協力団体として全日本印刷工業組合連合会が結集し、詳細な調査と研究を重ね、君塚孝雄氏が種字彫刻を実施し、長い時間と膨大な費用をついやされたビッグ・プロジェクトでした。

『日本の近代活字—本木昌造とその周辺』なお、その記録は『日本の近代活字—本木昌造とその周辺』(発行/NPO 法人・近代印刷活字文化保存会 発売/朗文堂 2003 9 30 日)にまとめられています。この書物はすでに品切れとなっておりますが、今回の IGAS に協賛いただいた、近代印刷活字文化保存会から特別に、長期保存版をわずかですが出庫していただきました。そのため、この書物は現在、一般書店には流通しておりませんし、おそらくこれが入手の最後のチャンスになりそうですので、ご希望のかたは早急に朗文堂/根岸宛にお申し込みください。

こうして復元された活字電鋳母型をもとに、新たに長崎で新鋳造され、ピッカピカに光っている活字が、今回、アダナ・プレス倶楽部にご寄贈いただいた「和様三号平仮名/片仮名活字」です。今回のご寄贈分の活字、仮名のみといえども、なにぶん平仮名異体字(変体仮名・万葉仮名とも)が多く、同一キャラクターでも「い 2 種」「ろ 2 種」のように数種の異体字があり、「は」や「に」にいたっては「波( 2 種)・八・盤・者」「仁・尓・那・丹・耳」に字源がみられる5種ずつの仮名があるという具合で、いざ組版にとりかかると、「どの場合に、どの平仮名を選択すべきか……」という疑問に悩まされます。

そこで IGAS 2007 では、平野ホール所蔵の本木昌造(号・永久)自筆の短歌 2 種を読み下し、本木の筆跡に近い仮名の字種を選んで文選し、組版・印刷を行いました。

新聞紙で丁寧に包装されています
キャラクター毎に分けられています

平仮名異体字

左から 5 列までが「に」

続く 3 列は「ほ」

平仮名異体字

左から 4 列までが「け」

続く 3 列は「ふ」

本木昌造自筆短歌

  尋 残紅葉

    いざさらば はやしのはたを わけて見ん
          秋のなごりの 梢いかにと  永久

IGASでの印刷物見本

本木昌造 自筆短歌

  雨中春草

    のどかにも 降りくらしたる春雨に
          みどり色そふ 野べの春草  永久

ギャラリー 006 もご覧下さい

長崎の皆さんも IGAS 2007 に上京されましたので、「和様三号平仮名/片仮名活字」を用いて実演中のアダナ・プレス倶楽部のブースをご見学いただきました。

「ところで、この三号活字には仮名だけではなく、漢字もあるんですよ、ご存じですよね」

「あぁ、あの楷書風の 2,500 種ほどの種字ですね。今回は仮名だけでしたので、漢字の部分は、市販の明朝体活字を組み合わせて印刷させていただきました」

「あの漢字の一部の活字母型を復元してあるんですよ。ぜひ東京でもご披露ください」

「喜んで……。でもすごい量になりませんか」

「いや、ほんの一部でたいしたことは無いですよ」

こうして、また近日中に長崎から「 和様三号漢字活字 」が到着の予定で、漢字・平仮名・片仮名の揃った「 和様三号活字 」は、わがアダナ・プレス倶楽部の貴重な資料となります。それでも、その整理と分類・保存を考えると、うれしい反面ちょっと怖ろしい気もするこのごろです。

   協力:株式会社モリサワ

   NPO 法人近代印刷活字文化保存会

Robundo Publishing Inc. Tokyo JAPAN