2008 年 05 月 14 日
活版凸凹フェスタ2008 が無事に終了いたしました。
およそ 3,500 名のお客さまをお迎えして大盛況でした。
ご来場・ご協力ほんとうにありがとうございました。
「活版凸凹フェスタ 2008 」は、朗文堂 アダナ・プレス倶楽部の主催で、Adana-21J の発売 1 周年企画として、カッパン作家展示/特別企画展示/Adana-21J 展示・販売/ワークショップ/カッパン・ルネサンス・フェアと、盛り沢山 の内容で開催されました。
出品作家の皆さま、出展企業の皆さま、協力企業の皆さま、そしてなにより、ご来場の皆さまにあつくお礼を申し述べます。
会場は 4 月 20 日に改装なったばかりの旧四谷第四小学校で、この種のイベントとの会場としてはユニークな会場だったようです。しかし、なにぶん 70 年余のキャンパスで、しかも改装オープンの直後で、複数の運営法人が管理していますので、会場サインが不明瞭・不徹底でした。また、ほかのイベントのスタッフが、別の会場にご案内したりした混乱もみられました。ご迷惑をおかけしたお客さまには深くお詫びもうしあげます。
札幌・岩手・秋田・宮城・新潟・長野・山梨・静岡・愛知・滋賀・京都・岡山・広島・山口・高知・愛媛・徳島・福岡・長崎・熊本・鹿児島・沖縄など、ご遠方からご来場いただいたお客さまも多数いらっしゃいました。そして在廊していたカッパン作家やスタッフとの会話を楽しまれ、話がつきずに廊下にでて、小学生の使っていたちいさな椅子に向かい合ってチョコンと座り、かたらいを続けられているほほえましい光景を何度もみました。
「活版凸凹フェスタ 2008 」では、いたずらに作家性をあおることはさけました。それでも今回のイベントにご参加いただいたカッパン作品がユニークだったのは、凸・凹・平・孔の印刷四大版式が勢ぞろいしただけではありませんでした。カッパン作家のなかには、ライブ・インスタレーションで「エンボス加工」を展開し、その発想と企画力の素晴らしさは喝采をあびていました。また「増殖展示/ライブ・インスタレーション」も展開していました。このインスタレーションは、毎日会場の片隅で「文選・植字」を実施し、帰宅後に連日深夜まで印刷作業を展開し、それを翌早朝に特別企画展に展示するというものでした。ですから毎日、展示作品と印刷ページが増加し、会期の終了時に1册の書物が完成するという、びっくり仰天の企画も進行していました。
「活版凸凹フェスタ 2008 」は 5 月 2 日 - 12 日にかけて展開しました。開始寸前まで校庭の牡丹桜が豪華絢爛、あでやかな花をつけていましたが、開始日にはグラウンドに花びらが散りしいて、ときおり風に舞う風情でした。それにかわって、校庭片隅の藤棚が、紫の花房をたわわに開花し、正門脇では、白い藤棚が可憐な花房をたれていました。
「都営地下鉄できて、迷って校庭側にきたら、デージーやケシの花が夢のように咲いてお花畑みたいでした。カッパン作品だけでなく、おもわぬお花見もできました。なにかもうかったような嬉しい気持ちだった」
と記帳されたお客さまもいらっしゃいました。曇天と小雨まじりの日が多かったのですが、誘導サインの不徹底をお叱りになることなく、こんな嬉しい記録をお残しいただきました。ありがとうございました。
会期の後半は、正門脇のチューリップが満開となり、赤や黄色の鮮やかな花壇を楽しみながら入場の毎日でした。
「こんなイベントだったとは知らなかった。来年はぜひ私も参加したい……」
というお申し出が相次いだのも後半の特徴でした。またベテランのプライヴェート・プレスの主宰者からは、「自作の特注活字 サンセリフ系 @ 」もご提供いただき、カッパン実践派の皆さんの大きな話題となりました。
そして 3 度目、4 度目というリピーターのお客さまをたくさん会場にお迎えしました。こうした皆さんは、スタッフともすっかり打ち解け、お気に入りのカッパン作家もできて、あちこちで「カッパン談義」が盛んでした。
とても嬉しかったこと……。それはカッパン関連機器・資材メーカー、活字鋳造業者の皆さんの表情が明るかったことでした。
意外と気づきにくいのですが、
「デジタル機器が製造・販売されているから、デジタル・タイプがつくられる」
という、当たりまえの事実です。ところが忘れがちなのは、
「写真植字機が製造・販売されていたから、写植文字盤(板)がつくられた」
「カッパン印刷機が製造・販売されていたから、金属活字がつくられた」
という簡単な事実です。これは裏返すと、
「カッパン印刷機が製造・販売されないから、金属活字はつくられない」
となりかねません。カッパン印刷機そのものは比較的堅牢で、リ・ユースにも対応してきました。しかしその製造・販売が停止してから、すでに数十年が経過しました。ですからいつの間にかカッパン関連機器や資材の供給が停止し、活字鋳造所も意欲を失い、リ・ユース機器も限界に近づいていました。
Adaba-21J はちいさなカッパン機です。それでもこの卓上活字版印刷機の新発売によって、活字鋳造所はもとより、関連資材メーカーも、あらたなユーザーに向けた製造意欲を見せはじめています。カッパン・ルネサンスにむけた努力も、もうひと踏ん張りのようです。
もっとも嬉しかったこと……。それは多摩美術大学造形表現学部デザイン学科・高味壽雄準教授の研究室からのレポートでした。同大学は、率先して Adana-21J を数台導入され、今春の卒業制作展のはがきを 3,000 枚、3 色刷りされ、導入直後のバックアップにあたっていたアダナ・プレス倶楽部もビックリしました。さらに今回は格調高いマニュフェストを発表され、同時に実技・実践にもとづくタイポグラフィ教育を実践されています。
はじめました
活字組版・活版印刷
デジタル時代にアナログの活字組版、活版印刷の導入をした理由は
単なるノスタルジーではない。
多摩美術大学上野毛デザイン学科は 1989 年の創設以来
最新のコンピュータ環境を整え
デザイン教育と作品制作に活用してきているが
コンピュータ・ソフトウェアのバーチャルな世界に
タイポグラフィのことを知らない学生がいきなり入ってくると
ソフトウェアが自動的につくってくれていることに気づかず
善し悪しの判断力も身につかない。
かな漢字変換などではなく、活字という実体のあるものを
自分で探し出して、指で拾い、手で組むことを通じて
文字とタイポグラフィ、その歴史にたいする傾注力(アテンション)と
審美性を判断する力は確実に違ってくる。
コンピュータは脳に直結するが
活字と印刷機などの道具を使っての手作業は
身体を通じた想像力と審美力、精神に通じるだろう。
高味壽雄準教授の研究室レポートと、学生諸君 (4月の新入生)による力作ブログの数々は、
http://student.kaminoge-design.tamabi.ac.jp/~y2008/image_typography/2008/05/16.html をぜひともご覧ください。
ひと文字、1 本の活字もいとおしい……。
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