以前のアダナ・プレス倶楽部ニュースです。
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ニュース No.004 【アダナ・プレス倶楽部便り】
活字組み版の秘密の小道具
《文選箱とセッテン》
【文選箱】
文選箱は、文選した活字を入れる和文活版印刷に特有の木製の小箱で「採字箱」ともいいます。また文選箱は、活版印刷者にとっては、取り置き活字の収納、洋数字、句読点、オーナメントなどを収納し、植字台でも利用するなど、多方面に利用できるとても重宝な小型収納ケースともいえ、様々なサイズに分割した仕切り板をいれるなど、創意と工夫を凝らして利用します。こうした便利な文選箱ですが、これは文字種の多い漢字圏で用いられる活版印刷用の道具で、欧文組み版ではふつう文選箱は使用しないで、ステッキに直接採字しながら組み版を進めます。
文選箱の大きさはところによって多少の差異がありますが、一般に内のり縦 150mm( 426 ポ)、横 75mm( 213 ポ)、深さ 18mm であり、いっぱいに活字を詰め込むとおよそ 2kg の重量になります。この大きさの文選箱に入る活字の数量はつぎのとおりです。
ちなみに 5 号活字ですと丁度 400 字詰め原稿用紙 2 枚分、800 本に相当します。このように、わが国の活版印刷の「諸資材・諸道具」は、歴史的な経緯もあって、号数活字体系からポイント・システム体系に移行したのちも、この文選箱を筆頭に、パイカ( 12 アメリカン・ポイントに相当)基準ではなく、あきらかに 5 号・10.5 ポイントを基準としたものが多くあります。
活字のサイズ 8 ポイント 9 ポイント 10 ポイント 5 号・10.5 ポイント |
縦 1 行 53 本 47 本 42 本 40 本 |
横 1 行 26 本 23 本 21 本 20 本 |
総本数 1378 本 1081 本 882 本 800 本 |
【セッテン setting rule ; Setzlinie 】
英語の setting rule が訛って「セッテン」という業界用語で定着している、文選作業や植字作業の際に活字の滑りを良くするために使用される道具です。多くは必要とされる長さに合わせ、工匠が手作りで製作していました。真鍮・亜鉛などの罫線を素材として作り、高さは活字と同一とし、取り出しやすいように取っ手(突起)をつけます。
本来は欧文植字で行間にインテルを入れずにベタ組みをする際に、活字の滑りを良くするための道具として用いられるものです。すなわち活字をステッキに組む際、1 行分の作業が終わったときにセッテンを入れてから、次の行の活字を組み入れると、次の行の活字が、前の行の活字に引っ掛かることなく、スムーズに組むことができます。この作業を繰り返して植字作業の能率と精度を向上させます。
和文植字ではふつうは行間にインテルを組み込むために、これがセッテンの代用となり、ルビつけ以外にはあまり用いませんが、むしろ文選の際の必需品としてセッテンが用いられます。文選箱をよく見ると、ときおり長年の使用によって自然に刻み込まれたセッテンの痕跡を、箱の内側面に見ることができます。
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