以前のアダナ・プレス倶楽部ニュースです。
現在はブログにてお知らせしております。
ニュース No.032 【アダナ・プレス倶楽部便り】
見どころ満載の会場のようすをお届けします。
カッパンのアレ・コレが盛りだくさんの会場から、
そのようすのほんの一部をお届けいたします。
会場は昭和 10 年( 1935 )建造の小学校の跡地です。「おもちゃ美術館」と同じ建物の中にありますので、廃校となったいまでも館内には、こどもたちの元気な声が毎日のようにこだましています。そんなこどもたちといっしょに正門をくぐり、体育館の横を通りながら校舎に入って、左手奥の階段より地階に下ります。途中、ゲタ箱に靴を入れて上履き(スリッパ)に履き替える、誰もが幾度となく繰りかえしたあの儀式を済ませたら、ここが母校ではないひとにとっても、共通の既視感をいだかずにはいられません。そんな時空の小旅行を楽しみながらさらに階段を下ると、そこには「なつかしいのにあたらしい」カッパンの世界がひろがっています。さぁ、はやる気持ちをおさえながら長い廊下は走らずに、教室へと向かいましょう。
まず、手前の教室、アダナ・プレス倶楽部会員による「カッパン作品展」の会場より、ご案内いたします。教室に入るとき、頭上から黒板消しが落ちてきたりはしませんので、安心してご入室ください。こちらでは児童用机を展示台に、黒板や掲示板の跡を展示用壁面にもちいて、たくさんの作家の作品を展示しています。教室をぐるりと一周しながら、各作家の作品と見どころの一部をご紹介いたします。
阿部真弓
「つぶつぶ∞もくもく」の阿部真弓さんの作品です。阿部さんは今まで、銅版画を中心に制作をされていましたが、「刷り好き」が嵩じて「刷る人生」を選択、昨年ついに自宅に Adana-21J をお迎えされました。今回の活版凸凹フェスタ出展は、阿部さんのピッカピカの活字版印刷機 Adana-21J を初起動させる良いきっかけとなったそうです。さまざまな印刷用紙、とりわけ個性のつよい和紙を多用して、同じ版から幾通りもの表情豊かな作品を展開しています。また、古い活字と新しい活字を上手に混ぜて使用することにより、古い活字のもつ角のとれた「もくもく」とした穏やかさと、真新しい活字のシャープさがちいさな活字の「つぶつぶ」感を引き立て、刷り上りの表情に和みと緊張感を同居させる絶妙な印刷効果を生み出しています。
大石 薫(アダナ・プレス倶楽部)
Adana-21J を使って制作した印刷物の例として、活字版印刷(Typographic Printing)と凸版印刷(Letterpress Printing)の作品を展示しています。毎年、欧文書体の組版例として、活字書体史の順番に一書体を選択し、年賀状を制作しています。前職の印刷博物館/印刷工房「印刷の家」での勤務時代に ADANA8×5 をもちいて、Black Letter、Centaur、Bembo の年賀状をすでに制作していましたので、その続きからはじまる、Poliphilus、Garamond をアダナ・プレス倶楽部での 2 年間分の年賀状として展示しています。展示をとおして、同じ組版から、紙やインキの色をかえてさまざまな表情が楽しめるリトル・プレスの楽しさをお伝えできればと思っています。
かねこひとみ
詩人のかねこひとみさんによる作品です。みずから詩作・活字組版・印刷・製本をおこなった詩集と、罫線や約物・記号活字・花形活字を組んで印刷したカードと組版の展示をおこなっています。作品の一部は「弘陽」さんの企業ブースで販売もしています。本人がお店番をしている日も多くありますので、タイミングが合えばぜひ、直接お話しをしてみてください。
きゅら(Q’ra)
丸いコースターを覗き穴にみたてた、きゅら(Q’ra)さんの wonderwall という作品です。ジェーン・バーキン主演の 60 年代の英国映画「 wonderwall 」をモチーフに制作した作品だそうで、丸い孔のなかに刷り込まれた、現代日本の女の子の私生活と心理を、ちょっぴり垣間見させてくれる、ユーモアな作品となっています。コースターと同じ版(樹脂凸版)を使用して、印刷用紙を天地逆さまに置きながら、連続して二度重ね刷りした作品のほうは、本人曰く「エッシャーを彷彿とさせる作品に仕上がった」とのことです。
桐島カヲル(Lingua Florens)
断片小説家の桐島カヲルさんによる作品です。桐島さんは「言葉の花園」という意の造語である「Lingua Florens」というプライヴェート・プレスで、文学と美術を融合させた作品を制作しています。ストーリーを組み換えて、さまざまなものがたりを、くりかえし構築することができる「断片小説」は、桐島さんが学生時代に学んだ植物遺伝学と分子生物学が、可動活字(movable type)を組み合わせて点(文字、単語)・線(文)・面(書籍=立体的・重層的構造物)を構成するタイポグラフィの発想と結合したものです。今回は、製本家の橋村瑠璃子さんの手を経て綴じられ、挿絵がほどこされた作品も展示しています。
佐藤礼子(リュース オ ボウ)
デンマーク語で「光と本」を意味する「リュース オ ボウ(lys og bog)」の佐藤礼子さんによる作品です。今回は屋号と趣味のお料理にちなんで、北欧家庭料理のレシピカードを活字版と樹脂・亜鉛凸版で印刷した作品を展示しています。木製スプーンの上にディスプレーされているのは、印刷に使った凸版類です。佐藤さんとデンマークとの、ちょっぴりふしぎですてきな出会いのお話しは、ぜひ、在廊時に直接、本人にたずねてみてください。
たなか鮎子
イラストレーターのたなか鮎子さんによる銅版画と活字版印刷の作品です。今回、活版凸凹フェスタに出展するにあたり、活字版印刷の歴史を知るために、印刷博物館まで勉強に行かれたという熱心な参加作家です。その成果は、なんと、西洋式活字版印刷術の開発者「グーテンベルク」と、西洋式活字版印刷術の本邦導入者「本木昌造」をテーマにした、出展作品にあらわれています。絵本のイラストを多く描かれているたなかさんですが、その手にかかると、いままでの印刷業界人のイメージしていた「グーテンベルク」と「本木昌造」とはまた、ひと味もふた味も違った、斬新で親しみのある両像に仕上がっています。印刷業界関係者にも、そうでない方にも、それぞれに鑑賞を楽しんでいただける作品です。
多摩美術大学造形表現学部 デザイン学科
昨年末 Adana-21J を導入した多摩美術大学上野毛キャンパスで、今春はじまったばかりの「活字組版・活版印刷ワークショップ」に関するレポートをパネル展示しています。多摩美術大学上野毛デザイン学科では、デジタルコミュニケーション担当の高味壽雄準教授と木工室担当の小田倉綾香助手のもと、独創的な切り口で、今後の活字版と活字版印刷機を活用した学校教育のありかたのひとつとなるであろう、大きな可能性を秘めた授業展開をおこなっています。一方では最新のコンピュータ環境を設備した施設でありながらも、デジタル時代にアナログの活字組版・活字版印刷をおこなうことの意義を重視し、活字版印刷へのノスタルジーではなく、長いタイポグラフィの歴史をバーチャルに実現しているものとしてとらえ、その歴史に対する傾注力(アテンション)と審美性を判断する力と、手作業を通じた想像力を養うことにより、身体性をともなったモノづくりとコミュニケーションを実践する教育と環境づくりを提示しています。また、今回の出展は、現在進行形の「イメージと文字」の授業ともリンクしており、「活版凸凹フェスタ」を見学した学生に感想レポートを各ブログ記事で発表させるという形式の課題を通して、現代を生きる私達のアナログとデジタル両メディアの融合と、その有効的な活用の生きた実例をも見ることができます。
つづきあきえ
フランスとスイスで製本を学び、現在は TypeShop_g で製本を教えている、つづきあきえさんの製本作品です。一口に洋式製本と言っても、国によってその技法や考え方はさまざまです。本人の在廊時には、ぜひ、そのあたりの違いを直接おたずねいただければと思います。今回は、製本技術を応用した紙製の名刺入れや、印刷時のヤレ紙などを使ってつくった手帳の展示・販売、ヒロイヨミ社の山元伸子さんによる活字版印刷の作品を、つづきさんが製本したコラボレート作品などを展示しています。糊をもちいない製本技法や、一枚の紙をもちいて折りのみで本やケースをつくる技法など、シンプルでモダンな作風がつづきさんの製本のもちあじです。
日本大学藝術学部 美術学科
日本大学藝術学部美術学科絵画コース版画専攻有志の皆さん(青山由貴枝、岡田怜衣奈、橋本知佳、吉岡寛恵、大橋朋美、宮崎景子、坂本佳苗)による作品です。今秋開始予定の活字版印刷実習のカリキュラムに向けて、4月に活字版機材の整備をはじめたばかりの所沢キャンパスですが、さすがは版画コース、版を使った表現はお手のもの、有地好登教授、笹井祐子準教授、宮澤真徳助手の指導のもと、もう活字版印刷を自在に使いこなしています。今回は各学生が自分の好きな本を選び、そのイメージを蔵書票と文字にあらわした作品を出展しています。蔵書票は銅版画(エッチング)の技法をもちいて腐蝕部分にインクを詰めて凹版プレス機で刷り、文字は活字版をもちいて活字版印刷機で印刷をしています。
橋村瑠璃子
製本工房リーブルで手製本を習得されている橋村瑠璃子さんの作品です。印刷術とは切っても切り離せない技術である製本術と、手彩色による繊細な植物画、本金箔による箔押しや金泥・銀泥・顔料を使ったイルミネーションは、保存や発色を考慮した古今東西のさまざまな素材選びと、伝統的な技法の積極的な探求、そして、その応用のもとに成り立っています。今回は、洋式製本には欠かせない、革細工の技術を応用して制作した革製の「花の栞」も販売しています。
平川珠希(LUFTKATZE)
LUFTKATZE 主宰の平川珠希さんの作品です。ドイツの工房で制作をした木活字の作品、その経験を活かした技法とはなやかな色彩、和紙に印刷をして巻物状に仕立てたものがたり、自筆のイラストや約物を組み合わせたこまやかな作品など、ドイツ語で「空猫」を意味する「 LUFTKATZE 」の屋号そのままに自由に空を飛びまわる猫のように多彩な作品の展示となっています。大きな作品は廊下のひろい壁面にも展示をしてありますので、こちらもお見逃しなく。
藤田 緑
女子美術大学の杉並キャンパス活版工房で、活字版印刷の講座を担当されている藤田緑さんと、工房アシスタントの松尾麻子さんによる展示作品です。活字版はもとより、木やアルミ、罫線などといったさまざまな凸版材料をもちいてテキンで印刷をした作品や、新聞広告の研究資料として、活字と写真版を円圧式の活字版印刷機をもちいて印刷した作品などを出展しています。大学の工房として、本科学生のためのタイポグラフィ教育と研究、一般や地域住民のための生涯学習・アートセミナーといった、多様な工房活動の実践のようすがわかる展示となっています。
まさなりみゆき
「もっと犬を!」をテーマに作品を展開している、まさなりみゆきさんの展示と実演です。リトグラフ(石版・PS 版)、エンボス(銅版・プラスチックプレート)、カッパン(活字版・樹脂凸版)と凹凸平を縦横無尽に駆け巡り、さまざまな犬を表現した作品群からは、ちいさな机上でありながら、まさなりワールドが炸裂した、たのしい展示となっています。作家在廊時には、エンボスによるポチ袋の制作・実演・販売もおこなっており、プレス機を使わずにエンボス加工を施す秘儀を特別公開中です。
山元伸子(ヒロイヨミ社)
プライヴェート・プレス「ヒロイヨミ社」代表、装丁家の山元伸子さんの作品です。ヒロイヨミ社では、「めぐりあえたことばを、大切にていねいに、そして自由に、紙の上にあらわしていく」ことを活動の目的としています。以前は、孔版(シルク・スクリーン)をもちいて、不定期刊行誌「ヒロイヨミ」を発行していましたが、やはり文字の印刷に関しては、活字版がより適していると感じ、活字版印刷をはじめました。会場では、「ことばにとって、より美しく、新しく、ふさわしいかたちを」日々探し続けている、ヒロイヨミ社のゆるやかな旅の軌跡を垣間みることができます。
ユニバーサル・レタープレス
今春、蔵前に誕生したばかりのまだ初々しいレタープレスです。「はじめまして」のごあいさつのかわりに、ユニバーサル・レタープレスの周辺マップとショップ・カードを展示しています。また、アダナ・プレス倶楽部の会報誌「 Adana Press Club NewsLetter 」の特別寄稿でも大好評だった「活版まんが」も、可愛らしいポケットサイズバージョンでお目見えしています。
リン版画工房
城戸宏さん率いる藤沢のリン版画工房より、城戸さんご本人と版画教室在籍の、岡城直子さん、尾田美樹さん、小野優子さん、山本裕子さんによる出展です。リン版画工房さんでは、銅版画、リトグラフ、木口木版、紙版画、コラグラフ、エンボスといった凹・凸・平さまざまな版画技法に加え、工房内に活字版印刷設備「ツバメ活版印刷所」を併設し、版画と活字版印刷を組み合わせた作品づくりにも力を入れています。会場には、金属凸版の登場以前、活字組版といっしょに組み込んで挿絵を印刷する技術であった「木口木版」による作品と版木、それを彫るための彫刻刀「ビュラン」も展示されています。また、同工房では、版画インキの色味にもこだわりをもって、顔料より調合したインキも作製しており、それらを使った鮮やかで深みのある色調の作品も特徴のひとつです。
Robundo Publishing Inc. Tokyo JAPAN