以前のアダナ・プレス倶楽部ニュースです。
現在はブログにてお知らせしております。
ニュース No.033 【アダナ・プレス倶楽部便り】
会期は終了いたしましたが、レポートはまだまだ続きます。
おかげさまで活版凸凹フェスタ 2008 は、連日大盛況で幕を閉じました。しかしながら、第一回目の開催であるにも関わらず、幸いにも多くの参加作家による個性的で情緒豊かな出展作品や、内容の濃い展示が目白押しで、会期中にすべてのレポートが追いつかないというありさまでした。また、遠方にお住まいで、会場に直接お越しになるのが難しいアダナ・プレス倶楽部会員の皆さまがたが、全国各地にたくさんいらっしゃいます。会場での展示は終了いたしましたが、まだまだ「活版凸凹フェスタ 2008 」のレポートを続行させていただきます。
レポート 1 に引き続き、アダナ・プレス倶楽部会員による「カッパン作品展」の会場からご案内させていただきます。レポート 1 では、教室の壁面にそって、ぐるりと教室を一周しながらご紹介をさせていただきましたが、今度は教室中央部の机上展示の作品を中心にご案内させていただきます。
石松あや(しまりすデザインセンター)
しまりすデザインセンター主宰の石松あやさんの作品です。石松さんは「おいしくて楽しい」をテーマにした作品を多く制作されていますが、今回は「しまりす本舗」という架空のお饅頭屋さんを設定して、「しまりす饅頭のしおり」を活字版で印刷し、お饅頭とパッケージも手づくりして展示するという手の込んだ演出です。お饅頭にはトレードマークの「しまりす」のキャラクターの焼印(もちろん特注です)が押されています。そんなお茶目な作風の石松さんですが、実は今回の出展作家の中では、活字版印刷歴がいちばん長い、つわものプリンターでもあります。なんと、パソコンが一般に普及しはじめて、誰もの目がデジタルへと向っていた90年代前半(=カッパン終焉期)に、時代に逆行するように活字版印刷をはじめた石松さんは、学友とカッパン・ユニット「ンカッパ」を結成。エスプリの効いた内容・全ページ活字組版印刷という、「時代を先取りし過ぎた」趣向性の高い小冊子などを刊行していました。時代が追いついた今、「ンカッパ」再始動の日が期待されます。
上原修一
銅版画家の上原修一さんの作品です。美学校で銅版画の講師もされている上原さんですが、今回は「触って楽しい銅版画」と題して、凹版の貴重な原版そのものと、その版を使って刷り上げられた大切な銅版画作品に、直接触わらせてくださるという大変稀少な機会をご提供いただきました。鑑賞者が自由に、「凹版の版の凹み」と「刷り上った銅版画のインキの盛り上がり」に触れて実感できるというインスタレーションを通して、凹版印刷の仕組みと表現を知り、さらに会場の他の凸版(活字版)印刷作品の仕組みや表現と比較することによって、凹版・凸版双方への理解を深めることができる趣向となっています。また、ドライポイント、エッチング、フォトエッチング、アクワチント、コラグラフといったさまざまな技法の紹介を通して、銅版画の可能性と奥深さ、その版と表現の重みと軽やかさに触れ得ることができる大変有意義な展示となりました。
片岡知子(八朔ゴムはん)
アンダーグラウンド・ブックカフェのイラスト・ロゴや、一箱古本市のスタンプラリーのスタンプ制作でおなじみの、「八朔ゴムはん」片岡知子さんの作品です。片岡さんは、消しゴムやリノリウムを版材としたスタンプを制作されています。「消しゴム版画やリノカットも凸版の一種」という観点から、今回の凸凹フェスタにご参加いただきました。できあがったハンコを押した作品の趣きのある美しさと独特な世界観の面白さはもちろんのこと、デザインナイフ 1 本で彫り上げるというハンコそのものも見応えのある作品となっています。ハンコの余白部分を削り取ったナイフの刃痕は、まるで古都の禅寺の枯山水の箒目のよう! 息をのむほどの美しさをたたえています。そのような版の整然とした清々しい繊細さと、南米ベネズエラで培われた個性的な色彩感覚と大らかな作風の共存が、片岡さんの作品の魅力を醸し出しています。
空中線書局
造本家の間奈美子さん主宰による自主出版工房「アトリエ空中線」と、間さんが詩人「未生 響」として遊戯詩と造本を手がけるためのプライベート出版局「空中線書局」による作品です。今回は「アトリエ空中線」より、シュルレアリスムの詩人ポール・エリュアールの『花と果実の紋章』の翻訳詩(佐藤巌 訳)と別冊の原文詩を活字版印刷し、山下陽子さんによる銅版画の装画の入った贅沢な限定版詩集を。「空中線書局」からは、今回の活版凸凹フェスタ 2008 の初日が発行日と重なった待望の新作、活字版印刷・アンカットかがり綴による句集『ファザーランド・ハイキング 2 』の記念すべき初お披露目の場ともなりました。
真田幸治
装幀家の真田幸治さんの作品です。書物をこよなく愛する真田さんがセレクトした、十二の小説のなかから冒頭の部分を印刷し、配した作品で、活字版の時代に印刷された古書の文字を版下に樹脂凸版をおこし、古びた紙に印刷することで、古色蒼然とした面白い効果を産み出しています。
田中智子
活字版印刷をまだはじめたばかりの田中智子さんの作品です。田中さんは、大切なご家族の遺品として長年仕舞っておられた印刷機を、アダナ・プレス倶楽部との出会いによって昨年始動させました。まずは故人の集めた欧文活字を全種刷ってみたいということで、「マザー・グース」を数葉制作。所蔵活字の見本帳と組み見本を兼ねた作品となっています。また、記号活字をクロス・ステッチ刺繍のように組み込んだ作品や、さまざまな色や種類の紙とインキをもちいた印刷から、とても楽しく、積極的に制作活動に励まれているようすが伝わります。その集中力と熱心さから、とても初心者とは思えない、多彩で繊細な作品が生まれました。
つぼやあやこ
「さまざまな版の機嫌」と題した、つぼやあやこさんの作品です。平版(石版印刷)、凸版(活字版印刷)、孔版、デジタル版……さまざまな版種の特徴や面白さを活かした、つぼやさんの手仕事はどれも、温かみと透明感を孕んだひとすじの穏やかな南風のようです。波照間島の製糖工場と東京との往復書簡を綴った詩画集『黒糖のにほい』(共作:藤田夢香)、ジョバンニをモチーフとした「たびをするひと」など、紙面を通して有形無形数々のデジャヴを楽しむことができます。実は、活字版印刷に興味を示される方の中に、妊婦さんや新米ママさんの割合も高く、それは昨今のレタープレス・プリンターやプライヴェート・プレス・プリンターの殆どを30代の女性が占めているという現況と、そのライフスタイルとに密接に関係しているあらわれかと思われますが、自己のペースを維持しながらも、家庭に仕事に趣味にと精力的に活動されるようすは、凛とした美しさと、やわらかな愛情に満ちあふれています。つぼやさんもそんな素敵な女性のおひとりです。
松本亜季
プライヴェート・プレス「目覚活版」の「ゆめみここちこ」さんこと、松本亜季さんによる作品です。凸版(金属活字、木活字、紙版画、その他)、凹版(銅版画/エッチング)、孔版(シルクスクリーン)などのさまざまな版式・技法の特性と面白さを巧みに組み合わせながら、執筆・組版・版画・印刷・製本すべてをご自身の手でなされている松本さんは、プライヴェート・プレスによる究極の本づくりを、ご自身のペースで楽しく実践されています。
龍骨堂
眼を見開いてみる夢を具象する龍骨堂さんの作品です。稀なる標本の記録を記載するための項目とラベルの罫線を、群青色のインキで活字版印刷し、綴じ合わせた「ハインリッヒカイト萬集手帳」。黄昏の国でつくられたこの手帳に、白昼の夢や世界の片隅の秘め事を綴るもよし、月光の雫や水晶の溜息を密やかに留め置くもまたよし。ただし、手帳を再び開いたその瞬間に、貴方の秘密の萬集物の数々が、外気に晒されて蒸発してしまうことのないように、くれぐれもご注意召されますように……。
渡辺正央(ラクデザインスタジオ)
愛媛県在住のグラフィック・デザイナー、ラクデザインスタジオ(Raku Design Studio)の渡辺正央さんの作品です。渡辺さんは今年、ご自身の愛媛の事務所でカッパンをはじめられたばかり。今回の凸凹フェスタの出展作が、事実上、渡辺さんのはじめてのカッパン作品となりますが、とてもデビュー作とは思えない、仕上がりの作品となっています。四つ葉のクローバーをあしらったアドレスカードと、おいしいコーヒーの入れ方を文章と写真版で綴った『Coffee Book』からは、渡辺さんのモノに対するこまやかな愛情とモノづくりに対する真摯な気持ち、そして何よりもその過程を楽しまれているようすが活き活きと伝わってきます。
Robundo Publishing Inc. Tokyo JAPAN