朗文堂 アダナ・プレス倶楽部 こんな時代だから、活版印刷機を創ってます。

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コラム No.005

嗚呼、ギョーカイ !2

見えない活字 ── 込め物を考える


「こんな時代だから、活版印刷機を創っています」が、朗文堂/アダナ・プレス倶楽部の標語のひとつです。それをいうと、ほとんどの方が、

「印刷機はわかりましたけど、活字の供給は大丈夫ですか ?

と聞かれます。

正直いって、活字供給には不安がなくはありません。それでも国内には 10 数件の活字鋳造所がありますし、こんな時代に活版印刷機をつくり、そのシステムを再構築する苦心とくらべたら、活字の供給にはまだまだゆとりがあります。

いずれ「ショップのご案内」でもご紹介しますが、わがアダナ・プレス倶楽部がユーザーの皆さまにご提供する(和文)活字は、現在 11 社と提携して販売にあたっています。そして Adana-21J が普及すれば、これらの活字鋳造所は、専業者の需要のほかに、あらたな活字ユーザー市場の形成を喜んで迎えてくれるでしょう。

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Website に関連した書き込みが増えていますので、すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、残念なことに、アダナ・プレス倶楽部の発足直後に活字供給を交渉していた活字販売店のうちの一社が、2007 3 月末をもってその長い歴史に終止符を打たれることになりました。現在この企業は清算の最中にありますが、その企業の有する歴史、その大きさから、その幕引きの対応に大変お忙しい状況にあります。そのため、できるだけご迷惑にならないように、ここではその詳細に立ち入ることは避けたいと思います。しかしこの事態はすでに昨年の秋には予測もされておりましたし、春先よりその対応にギョーカイの英知が集められ、きわめて知的な清算作業が粛々と進行してまいりました。

この企業の創業以来の本業は「活字母型製造所」であり、活字鋳造所、活字自家鋳造の大手印刷所からの「依頼によって」、金属活字の母型( Type Matrix )を製造・販売していました。長い歴史のなかで、一度経営困窮におちいった過去もあり、そのさい、本業の活字母型製造・販売と併せ、活字鋳造・販売も併営するようになりました。

そのため、この企業に発注・製造された活字母型はもとより、もともと自社の無形資産ですから当然ですが、活字原字・原図のほとんどは、各活字鋳造所や大手印刷所が所有・保管していますので、今後も特殊な書体を除けば、出どころを同じくする母型から鋳造された書体の活字を購入することは可能です。

しかしながら、当然今後とも活字母型に保守を加え、また字体の改変にも対応しなければなりません。その意味で「活字母型」の安定供給に困惑はありますが、ベントン機械式活字彫刻母型の製造所は、アダナ・プレス倶楽部が知るだけでも、まだ国内に 3 社はあります。

今や昔のように、同業者が廃業すれば競争相手が減ったと喜ぶ状況ではありません。お互いの存続と展望のために、未来を見据えた活字鋳造所・活字販売店がそれぞれ協力して役割を分担し、「ギョーカイの英知を集めて」冷静かつ知的な対応にあたっているようです。わたしたちはそれを静かに見守りたいと存じます。

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「字面 じづら」すなわち、摩耗したり、損傷しやすい活字には、いまでも業者の発注がありますし、前述したように、当然一定の供給態勢が整備されています。また「活字書体」は、「写植活字」「電子活字」の書体開発の源泉としても利用されますので、一般のかたの関心も高いようです。

ところが活版印刷の、印刷面には出ない、余白をつくるための大切な道具、いわば「カタチはあれども見られざる物体」ともいえるのが「込め物」です。

この「込め物」にはなかなか一般のかたは関心を向けませんし、消耗のはげしい活字とちがって、解版後に何度も分類・整理しての再使用が可能です。また比較的価格が安く、活版印刷の盛時には業者は大量に込め物をストックしていました。そのため、活字は買っても、込め物はここ何年も買っていない製造していないという業者がほとんどです。

そのためますます需要の少なくなった現在では、活字以上にその供給に不安がありました。「込め物」には、号数体系、ポイント体系のそれぞれの活字サイズに合わせて、それぞれの込め物があります。高さは活字より低く、おおきな余白、小さな余白それぞれに対応できるようにさまざまな大きさがあります。

アダナ・プレス倶楽部では、これらの「カタチはあれども見られざる物体/込め物」の安定供給に向けて努力を重ねてまいりました。そして意欲ある業者群を発掘して、製造を再開していただきました。ですからあらたに Adana-21J をご購入のお客さまはもとより、リ・ユースのマシンをお使いで、各種の「込め物」に困難をきたしているかたも、どうぞ遠慮なくご相談ください。

また「ファニチュア・セット」をお求めのかたには、その解りやすい「組みつけ見本シート」も添附されています。


活版印刷用語集より
【込め物】

印刷面には出ない、余白をつくるための道具です。号数体系、ポイント体系のそれぞれの活字サイズに合わせて、それぞれの込め物があります。高さは活字より低く、大きさは様々です。金属材のうち中空のものを「ジョス justifier ; Hohlsteg、クォーテーション、フォルマート、マルト、ファニチュア furniture ; Formatsteg 」などと呼びます。

「インテル leads ; Durchschuß

活字組み版の行間に差しはさむ木製または金属製の薄い板。英語の鉛の複数形「レッズ leads 」を訛って「レッチ」ともいいます。高さは活字より低く、一般に 0.760 — 0.770inch ほど。長さは手鋳込みのものは 60cm くらいありますので、インテル切り機で適当な長さに切断して使用します。インテル鋳造機で鋳造したものは、自動的に任意の寸法に切断されていますので、そのまま用います。なお、わが国ではしばしば厚さ 5 8 分( 1.3125 ポイント)のインテルを用いることがありますが、これは主に亜鉛板のトタン板を利用していたことから「トタン・インテル、トタン」と呼ばれています。

関連機器:インテル切り機/インテル定規/インテル鋳造機

「スペース space ; Ausschluß

全角に満たない込め物。活字組みの字間または語間に差し込んで、こまかな余白をつくる道具です。2 (にぶ・にぶん)3 (さんぶ・さんぶん)4 (しぶ・しぶん)5 (ごぶ・ごぶん)などの「分物 ぶんもの」や、2pt. — 0.5pt. 厚、ヘア・スペースなどのそれぞれの込め物があります。このほかにも、活字の字間に薄い紙などをはさんで調整することもあります。全角より大きなスペースを「クワタ」と呼んでこれと区別します。なお欧文植字では「 1/2 → en 」「1/3 → thick 」「 1/4 → middle 」「 1/5 → thin 」と呼びます。

関連機器:スペース・ケース/スペース小間/スペース箪笥

「クワタ quadrat, quad ; Quadrat

全角( em )以上、欧文では 2 分( en )以上、3 — 4 倍などの倍数の込め物。活字組み版の行末のアキ、空白の行などを埋めるのに用います。このクワタを入れておく木製の箱を「クワタ箱・込め物箱」と呼びます。


■ 込め物
  • 五号( 10.5pt. )用 込め物セット

※込め物ケースは含みません

五号 4 倍、3 倍、2 倍、全角、2 分、3 分、4 分のセットです。

五号(10.5pt.)用 込め物セット

■ インテル

インテル鋳造機(長瀬欄罫所有)

インテル鋳造機(長瀬欄罫所有)

  • 五号( 10.5pt. )用 金属製インテル

  • 名刺・はがき用セット

精密な組版に必要な、金属製インテルのセットです。はがき、名刺に適したサイズでご用意しました。厚みは五号用ですが、長さは 12pt. 倍数にも対応可能な寸法に揃えています。

・厚み:五号2分

長さ:

五号 40 倍(12pt. 35 倍 はがき長辺用)

五号 24 倍(12pt. 21 倍 はがき短辺・名刺長辺用)

五号 16 倍(12pt. 14 倍 名刺短辺用)

・厚み:五号4分

長さ:

五号 40 倍(12pt. 35 倍 はがき長辺用)

五号 24 倍(12pt. 21 倍 はがき短辺・名刺長辺用)

五号 16 倍(12pt. 14 倍 名刺短辺用)

五号(10.5pt.)用 金属製インテル 名刺・はがき用セット

  • 五号( 10.5pt. )用 木製インテル

  • 名刺・はがき用セット

活版印刷初心者の方にお勧めの、軽くて、滑りにくい木製インテルのセットです。この木製インテルはアダナ・プレス倶楽部の特製で、はがき、名刺の印刷に適したサイズを用意しました。厚みは五号用ですが、長さは 12pt. 倍数にも対応可能な寸法に揃えています。木製インテルは継続製造を粘り強く依頼していますが、細工ができる工匠が少なく、材料の十分に乾燥した朴の木が入手難で、新品でのご提供は今回提供の 10 セットだけとなりそうな貴重なアイテムです。

・厚み:五号全角

長さ:

五号 40 倍(12pt. 35 倍 はがき長辺用)

五号 24 倍(12pt. 21 倍 はがき短辺・名刺長辺用)

五号 16 倍(12pt. 14 倍 名刺短辺用)

・厚み:五号2分

長さ:

五号 40 倍(12pt. 35 倍 はがき長辺用)

五号 24 倍(12pt. 21 倍 はがき短辺・名刺長辺用)

五号 16 倍(12pt. 14 倍 名刺短辺用)

五号(10.5pt.)用 木製インテル 名刺・はがき用セット

■ ファニチュア
  • 金属製ファニチュア

  • 名刺・はがき用セット

    ※組みつけ見本例シート入りです。

はがき、名刺に適したサイズの金属製ファニチュアのセットです。長さは五号倍数にも、12pt. 倍数にも対応可能な寸法に揃えています。

細:

五号 40 倍(12pt. 35 倍 はがき長辺用)4

五号 24 倍(12pt. 21 倍 はがき短辺・名刺長辺用)4

五号 16 倍(12pt. 14 倍 名刺短辺用)4

中:

五号 40 倍(12pt. 35 倍 はがき長辺用)4

五号 24 倍(12pt. 21 倍 はがき短辺・名刺長辺用)4

五号 16 倍(12pt. 14 倍 名刺短辺用)4

金属製ファニチュア 名刺・はがき用セット

「込め物」と同様に、「締め具」もたび重なる再使用を経て、長い年月新品の需要もなく、そのため供給もなされてこなかった活版機材のひとつです。

しかし、リ・ユースのテキン型印刷機をご使用のかたでも、もっとも困惑されているのが、ジャッキの補充です。一見簡単そうな機構の器具ですが、実は組み版をチェースに確実に組みつけるための器具ですから、小さくても精巧で強靱であることが求められます。

アダナ・プレス倶楽部もいささかこの「ジャッキ」の製造には手こずり、海外からの輸入も試みたのですが、決して安価ではない上に、入荷直後にすでに 2 割ほどが不良品であることが判明し、継続的に品質の安定した商品を供給するために、輸入品をあきらめ、国産品の製造に着手しました。

すでに素晴らしいサンプルができあがっていますが、価格交渉ですこしばかり難航しています。もうしばらくで、アダナ・プレス倶楽部特製の、ピッカピカの真新しい「ジャッキ」をご紹介できると存じます。


活版印刷用語集より
【締め具・締め木・締め金】

締め木、締め金、くさび、クォイン、ジャッキなど、版面をチェースあるいは印刷機に組みつける際に締めつける用具の総称です。

「締め木」

チェースまたは活版印刷機の版盤に版面を締めつけるための木製のくさび。本来は版面とチェース、あるいは版盤の側壁との間に入れるくさび形の木材が「締め木」ですが、その周辺の余白部を埋める木製の角棒や金属材も合わせて「締め木・締め金・材木(ざいぎ)」と混同して呼ぶこともあります。

「クォイン quoin, mechanical quoin ; Schlie_keil

チェースまたは活版印刷機の版盤に版面を締めつけるためのくさびの一種。ノコギリ歯状の噛み合わせをもった、くさび形の鉄片をキーによってずらせて、くさびの幅を調節して締めつけます。

「ジャッキ jack

チェースまたは活版印刷機の版盤に版面を組みつける際に、締めつけるための用具の一種。2 枚の鉄片をネジで連結し、スパナでネジを回して鉄片の間隔を調節して締めつけます。


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