ことばが活きている限り、技術は生きつづけます。今、活版印刷の再生のために、まずことばを甦らせました。
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【締め具・締め木・締め金】
締め木、締め金、くさび、クォイン、ジャッキなど、版面をチェースあるいは印刷機に組みつける際に締めつける用具の総称です。
「締め木」
チェースまたは活版印刷機の版盤に版面を締めつけるための木製のくさび。本来は版面とチェース、あるいは版盤の側壁との間に入れるくさび形の木材が「締め木」ですが、その周辺の余白部を埋める木製の角棒や金属材も合わせて「締め木・締め金・材木(ざいぎ)」と混同して呼ぶこともあります。
「クォイン quoin, mechanical quoin ; Schlie_keil 」
チェースまたは活版印刷機の版盤に版面を締めつけるためのくさびの一種。ノコギリ歯状の噛み合わせをもった、くさび形の鉄片をキーによってずらせて、くさびの幅を調節して締めつけます。
「ジャッキ jack 」
チェースまたは活版印刷機の版盤に版面を組みつける際に、締めつけるための用具の一種。2 枚の鉄片をネジで連結し、スパナでネジを回して鉄片の間隔を調節して締めつけます。
【植字 composing, typesetting ; Setzen, Schriftsetzen 】
〈和文篇〉
活字・罫線・線画凸版・込め物などを組み合わせて活字の刷版を作る作業で、印刷業界では「しょくじ」を訛って「ちょくじ」と呼びならわしています。文字原稿に従って文選された活字を文選箱からステッキに移動し、指定原稿(レイアウトを含む場合もあります)に従って、句読点・込め物・ルビ(ふり仮名)などを加えてステッキ上に組み、ゲラに段落を整え、あるいは写真や挿し絵の刷版を組み込んで組み版を作ります。新聞・雑誌・辞書などでは、はじめ棒組みをおこない、のちに 1 ページずつにまとめる場合があり、本文と標題との植字作業をさらに分業化するところもあります。
〈欧文篇〉
欧文では字種が少ないために、アッパー・ケースとロアー・ケース、もしくはダブル・ケースを植字台上に並べ、直接ステッキに採字しながら、活字・込め物・罫線などを組み合わせて印刷用の刷版をつくります。「欧文組み版 composing, composition ; Satz 」とも呼びます。近世になってから、欧米では大量組み版の場合は機械式鋳植機でおこなうことが多く、手工業的な植字作業では、文選・植字・まとめを同一人がおこなうことが多くありますが、端物組みなどの狭い範囲に限られます。
【植字台 composing frame ; Setzregal 】
植字作業をおこなう際に使用する台。
〈和文篇〉
手前にゆるく傾斜した台の正面に、斜めに板を立てかけた簡便なものから、両袖または片袖に引き出しをつけ、あるいは側柱に桟(さん)をつけてゲラを収容するようにしたものなどの各種があります。
〈欧文篇〉
およそ 45 度に傾斜している上枠と、30 度に傾斜している下枠とからなります。この上部に大文字を入れたアッパー・ケースをおき、下部に小文字を入れたロアー・ケースを置きます。台の下の側柱に桟(さん)を取り付けて、これに他のケースを入れて保管します。この様式のものは収容数が少なく、またホコリがたまりやすいので、植字台のケース収納場所をタンスの引き出し式にした「キャビネット・フレーム」もあります。
【ステッキ composing stick ; Winkelhaken 】
植字用小道具の一種。ふつうは左手にこれを持ち、右手で活字を組み並べ、いっぱいになったら取り出してゲラに移します。鉄・真鍮・アルミニウム製で、幅 5cm 前後、長さ 13 — 40cm ほど。底板に沿って移動する止め金によって行の組み幅を固定します。ネジで止め金を固定するもの、小型レバーで固定するものなどがあります。欧文用のステッキには、パイカ( 12 アメリカン・ポイントに相当)の目盛りで固定できるものもあります。
「ステッキ組み」
植字の際、活字・込め物、罫線などを並べてステッキの上に組むこと。一般に植字はステッキ組みですが、このほかにゲラに直接組む「ゲラ組み」もあります。ステッキ組みでは原則として、ステッキに組みたいと思う行長に相当する倍数の込め物を並べ入れ、止め金をこの長さに固定してから組みはじめます。そのために行長に長短を生じることなく、正確な組み版ができます。
【ぜいへん/贅片 jet ; Gußzapfen 】
jet はジェット機と語源を同じくし、噴出・射出をあらわす言葉です。贅肉(ぜいにく)と同様に、余分で不必要なものとみられて、贅片とされますが、実は活字鋳造の際に鬆(す/空洞部分)の発生を防ぐ押し湯の働きをなすといった大切な役割があり、活字の尻尾のような形状をしています。手回し活字鋳造機では贅片を手で折り取り、その後を仕上げカンナで平滑になるように処理していました。のちに自動活字鋳造機が登場してからも贅片はのこりましたが、機械的に除去されるようになりました。この贅片を取り去って、活字の底面の平滑さを得るために削った溝の面を印刷したものが ゲタ になります。
【セッテン setting rule ; Setzlinie 】
英語の setting rule が訛って「セッテン」という業界用語で定着している、文選作業や植字作業の際に活字の滑りを良くするために使用される道具です。多くは必要とされる長さに合わせ、工匠が手作りで製作していました。真鍮・亜鉛などの罫線を素材として作り、高さは活字と同一とし、取り出しやすいように取っ手(突起)をつけます。本来は欧文植字で行間にインテルを入れずにベタ組みをする際に、活字の滑りを良くするための道具として用いられるものです。活字をステッキに組む際、1 行分の作業が終わったときにセッテンを入れてから、次の行の活字を組み入れると、次の行の活字が、前の行の活字に引っ掛かることなく、スムーズに組むことができます。この作業を繰り返して植字作業の能率と精度を向上させます。和文植字ではふつうは行間にインテルを組み込むために、これがセッテンの代用となり、ルビつけ以外にはあまり用いませんが、むしろ文選の際の必需品としてセッテンが用いられています。