ことばが活きている限り、技術は生きつづけます。今、活版印刷の再生のために、まずことばを甦らせました。

Glossary サラマ・プレス倶楽部の皆さんのための活版印刷用語集

BACK TO INDEX あ 行か さ た な は ま ら わ 

【圧盤 platen ; Tiegel

圧盤

平圧式印刷機( platen press )において、印刷用紙に版面を押しつけて印刷するための平らな金属盤の部分。手引き印刷機においても圧盤をプラテンと呼びますが、こちらは platen press と呼ばず、hand press と称されます。

行先頭へ ↑

【印刷 print, printing, press, graphic arts ;  graphische Künstes, Drucken

印刷

印刷用に刷版をつくり、この版面にインキをつけ、これを紙、フィルム、布、その他の素材に圧印・転写して、多数の複製をつくることです。用いる刷版の種類によって、凸版印刷・凹版印刷・平版印刷と、孔版印刷があります。ところがまったくふつうのことばとおもわれている「印刷」にも意外な謎が秘められています。すなわち中国で唐代末期宋代に木版印刷術が発明されましたが、その技術は「刷書」「刷印」などとしるされていました。わが国へは奈良時代に伝来していますが、漢字の「印刷」という名称は意外に新しく、清王朝後期に西欧から石版印刷や活字版印刷などが一斉に中国に伝来し、これらの新技術を職業とした工匠や版元が、在来技法の木版印刷術との差異を強調するために「書院・書局」などの新鮮な企業名をつけたり、「刷印」に変えて「印刷」の名称を用いたとされます。また中国の一部の印刷史研究家は、「印刷」は社会・哲学・銀行などと同様に、幕末から明治初期の「和製漢語」ではないかともします。しかし正確な文書記録は清朝末期の混乱に埋もれてみられません。ちなみに中国歴代王朝では、書物の刊行は内務府(内府)が管理していたために、中央政府による印刷・出版物は「官刊本・内府刊本・内府本」と呼ばれ、別格の権威あるものとして扱われました。また明王朝の印刷・出版部門は「経廠(きょうしょう)」と呼ばれ、清王朝前期の官刊本の印刷所兼出版所として著名な紫禁城内の「武英殿」は、正確には「武英殿修刻処」であり、その工匠は「彫書匠(彫版)、刷書匠(印刷)」などと呼ばれていて「印刷」の文字は現れてきません。どなたか「印刷」ということばが、いつから、どこで用いられるようになったのか、ご存じのかたがいらっしゃったらご教授ください。

 行先頭へ ↑

【印刷インキ printing ink ; Druckfarbe

印刷インキ

印刷インキ

ink は印刷業界ではふつう「インキ」と発音・表記されています。印刷の版式、印刷機の形式、被印刷素材の種類によって、とても多くの種類があります。インキのタック(粘りつき)・流動性・乾燥性がそれぞれ異なりますが、おもに顔料と、流転性と固着させる役目をする液成分の「ビヒクル vehicle 」を練り合わせたものに、必要に応じて補助剤を加えたものです。タックが強く、遅乾燥性の「凸版インキ・活版インキ letterpress ink, typographic ink ; Buchdruckfarbe, Hochdruckfarbe 」もその一種です。こうした活版インキにも「枚葉凸版インキ・凸版輪転インキ」など異なった組成のものがあります。これに対して平版インキ(通常はオフセット・インキと呼びます)は、湿し水を用いることと、印刷されたインキの膜圧が凸版印刷・凹版印刷と較べて薄いことから、湿し水とあまり乳化せず、着色力が大きいといった性質があります。また凹版インキは、彫刻凹版の印刷に用いるインキで、版の刻線によく入り、刻線以外の個所に付着したインキが拭き取りやすくなっています。したがって粘着性は少なく、適度な硬さがあることが特徴です。

 行先頭へ ↑

【インキ着けローラー form roller, applicator ; Auftragswalze

インキ着けローラー

版面にインキを着けるローラー。一般に、天然または合成ゴムのローラーを多く用います。まれにですが、活版用にはニカワ・ローラー、石版用には革ローラーを使うこともあります。凹版用にはゴム、合成樹脂などが使われます。「着肉ローラー、フォーム・ローラー、アプリケーター、トランスファ・ローラー」などとも呼びます。

 行先頭へ ↑

【インキ・トラップ ink trap

活字書体のデザインにあたって、印刷に際してインキが溜まりがちな画線の交差部などに事前に配慮をこらすことです。金属・写植・電子活字それぞれの時代に、独自の配慮がこらされています。わが国では定まった名称が無く、「墨とり・隅切り・切り込み」などと各社が独自の呼称を用いていました。

 行先頭へ ↑

【インキ練り盤 ink slab, ink table ; Farbstein

インキ練り盤

インキ練り盤

  1. インキをヘラで練ったり、混合したりするのに用いる大理石・石版石・厚い金盤・厚いガラス板など。古くはおもに石版石を流用したので「インキ・ストーン ink stone 」とも呼ばれました。

  2. 印刷機に装着されたもので、インキを練りならすための平らな金盤。この場合は本来「 ink table ; Farbtisch 」ですが、わが国では「インキ練り盤」として共通して用いることがあります。

 行先頭へ ↑

【インキ・ベラ ink knife ; Farbmesser

インキ・ベラ

インキ・ベラ

印刷インキを練るために用いる鋼(はがね)またはプラスチック製のヘラ。活版印刷には「 3 角ベラ」というタイプがよく用いられます。使用にあたっては「インキ練り盤 ink table 」を傷つけないように注意が必要です。

 行先頭へ ↑

【インキ・ボール ink ball, tampon, dabber ; Ballen, Druckerballen, Farballen

おもに手引き印刷機において、印刷インキを版面に着けるために用いる工具。ボロ布・毛糸のクズの類を軟らかな革または絹布などで包み、2 個をもって一組とし、インキを練り合わせ、版面に叩きつけるようにして着肉します。ニカワ・ローラー、ゴム・ローラーの普及とともに次第に使用が減りましたが、現在では「タンポン、タンポ」の愛称で凹版印刷の一部などで使われています。

 行先頭へ ↑

【インキュナブラ incunabla, cradle book

インキュナブラ

雅春文庫蔵 :プリニウス著「博物誌」

1472 年 ニコラ・ジェンソン ヴェネチア

おもに欧州の書誌学・図書館学の用語で、グーテンベルク( Gutenberg, Johann Gensfleisch 1399? — 1468 )の時代から 15 世紀末までの半世紀ほどの短い間に刊行された「活字本」のことです。ドイツの書誌学者が、揺りかごの中( in cradle )という意味のラテン語「 incunabla 」をこれに与えたもので、揺籃期(ようらんき)本とも呼びます。

 行先頭へ ↑

【エフェメラ ephemera

おもに欧州の書誌学・図書館学の用語で、端物印刷物の役割と形姿が、短命ではかないことから、蜉蝣(かげろう)の意に例えて、「エフェメラ ephemera 」と、むしろ愛着を込めて呼ばれています。ちなみに独語では ephemer、仏語では ephemere、英語では ephemeral で、ともに「かげろう、はかない、1 日だけの」といった意があります。

 行先頭へ ↑

【オフセット印刷 offset printing ; Offsetdruck, Gummidruck

通常の印刷が刷版から直接紙面に印刷されるのに対して、刷版から一旦インキ画像をゴム・ブランケットに転写( off )し、それから紙に印刷する( set )方法です。前者を「直(じか)刷り direct printing 」というのに対し、後者を「間接印刷 indirect printing 」と呼びます。金属平版の印刷はほとんどこの方式によるために、一般にはオフセット印刷=平版印刷という観念をもたれていますが、しかし刷版からいちど転写して印刷するという方法は凸版印刷や凹版印刷にも利用されています。つまりドライ・オフセット、チューブ印刷などは凸版オフセット印刷といえます。オフセット印刷術は古くから研究され、1875 年にロバート・バークレー( R. Barclay,)によって発明されたブリキ印刷が実用化された最初のものです。現在のような平版による紙へのオフセット印刷の歴史はここ 100 年ほどとあたらしく、1905 年アイラ・ルーベル( Rubel, Ira Washington 1846 — 1908)が偶然のことから発明したとされています。オフセット印刷の利点は、精密な画線が、比較的粗面の紙にも印刷できることと、直刷りよりも刷版の耐刷力が大きいことなどです。